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アスタロトのユニットクエストのネタバレあり。
そこは、薄暗い洞窟だった。 全身傷だらけになりながら、ふらふらと歩く人影が見えた。 彼の脇腹からはとめどなく血が溢れていて、彼の命があと僅かした持たないことを物語っていた。 ついに、歩く力が無くなったのか、彼は座り込んでしまった。 彼は、ボソボソと何かを呟いたあと、 『魔王様を……お願いいたします。』 その言葉が空気に溶けて消えると同時に、彼は……魔将アスタロトは、静かに息を引き取った。
「……!」 ベリアルの視界にいきなり飛び込んできたのは、魔王城の倉庫の天井だった。 ベリアルは、自分が倉庫の床に倒れていることに気づき、慌てて身体を起こした。 息苦しくて呼吸のペースが速くなる。心臓はバクバクうるさいし、身体中に汗をかいている。頭の中がぐちゃぐちゃのまま、辺りを見回すと、宝石のようにキラキラ光る欠片が落ちていた。 その欠片を見て、ベリアルの脳内は少し整理された。
ベリアルは、最近召喚された仲間との練習試合で、訓練所をめちゃくちゃにしてまい、その罰として倉庫の掃除を命じられた。 倉庫に置いてあった箱の一つに、魔王軍に在籍する仲間の力が結晶化した欠片が入れられていたのだが、ベリアルはその中に、同僚で恋人であるアスタロトの欠片を見つけた。ベリアルがアスタロトの欠片に触れた瞬間、脳内に、映像が流れ込んできたのだ。 欠片は、この世界とは別の世界線での、その人の人生を見ることができるという。 見たのは、アスタロトが勇者に敗れて死ぬ世界線だった。 恋人の衰弱しきった顔が、頭から離れない。ベリアルは舌打ちして立ち上がった、その時。 「ベリアルさん?」 背後から声が聞こえて振り返ると、倉庫の入り口に、恋人、アスタロトが立っていた。 「…なんだよ」 「魔王様に言われて、あなたがサボってないか見にきたんですよ。真面目にやってますか?」 倉庫に入ってくるアスタロト。足取りはしっかりしていて、元気そのものだ。 しかし、ベリアルの脳裏には、衰弱し、ひとりぼっちで死んでいくアスタロトの姿が離れない。頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。感情を爆発させたい、しかし、声が出なくて。そして。 「うわっ?!」 ベリアルは、アスタロトをきつく抱きしめていた。 「ベリアルさん、くるし…」 「アスタロト、アスタロト…!」 戸惑いの声を上げるアスタロトを、ベリアルはさらに強く抱きしめる。 アスタロトはジタバタともがいて、ベリアルの腕の中から抜け出した。ベリアルの手が、名残惜しそうに空を掴む。 「…どうしたんですか」 アスタロトは、ベリアルの様子がおかしいことにようやく気づき、出来るだけ優しくベリアルに話しかけた。 アスタロトの声に、ベリアルは幾分か落ち着きを取り戻して、理由を白状した。 「魔王様が集めた欠片触ったらよ、お前が死ぬ世界線が見えた」 「私がですか?」 「ひとりぼっちで、苦しみながら死んでいった。俺は、あの世界では、お前を守れなかったんだ」 ベリアルの声が震える。アスタロトは、ひどく悲しそうな顔のベリアルを見る。そして、一歩、ベリアルに近づいて、 「うおっ?!」 思いっきり抱きついた。 「アスタロト?」 「馬鹿な人。その世界線のあなたと、今ここにいるあなたは違うでしょう。なのに、そんな悲しい顔して…。」 そういうアスタロトの声は柔らかい。アスタロトは顔を上げ、ベリアルを見る。 「私は死にません。死ねません。魔王様の悲願が果たされるまで。約束します。それでも不安なら、しっかり私を捕まえててください。」 そう言って笑うアスタロト。その笑顔を見て、ベリアルはぐちゃぐちゃの感情が凪いでいくのを感じた。 「…必ず、守る。お前も、魔王様も、みんなも。」 そう言って、ベリアルはアスタロトを抱きしめ返す。
……その姿をリディアに見られ、ベリアルとアスタロトが説教を食らうのは、その30秒後だった。
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