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※エイプルフールまで我慢できなかったネタ
「別れようぜ」 その言葉は、ただのいたずらだった。 エイプリルフールとかいう催しの話をムルから聞いて、なんの気なしに言った言葉。いつもからかわれて遊ばれている仕返しをしてやろう、程度の考えで、デスクワーク中の恋人に、何気ない風を装って、そんな言葉を吐いた。 ちょっとでも反応があれば、すぐにネタバラシして、二人で笑い合えばいいなんて、そんなことを考えていた。しかし。 「…。」 10秒経っても返事がない。もしかして聞こえてないのか? 「おい、アスタロト─────」 そう思って、もう一度言ってやろうと、振り向いて、固まった。 「…。」 アスタロトの顔から、一切の表情が抜け落ちていた。 金色の丸い瞳が、こちらを射抜く。アスタロトはピクリとも動かない。 「…アスタロト?」 「…わかりました。」 俺が声をかけると、奴は抑揚のない声で呟いた。 「この関係は、終わりにしましょう」 あくまで平坦な声。なのに、口以外の表情が動いていない。 柄にもなく恐ろしくなって、慌てて声をかけた。 「…なーんて、嘘だよ!ムルから聞いたエイプリルフールとか言う催しだよ!嘘ついていいんだとよ!」 だから、そんな顔するなよ。そう続けようとすると、ぷっ、と噴き出す声が聞こえた。 「ふふふ、わかっていましたよ。あなたがいきなりそんなこと言うわけないでしょうから。」 見ると、アスタロトがくすくす笑っている。 「そんなことだと思って、私も嘘を吐きました。驚きましたか?」 にやにや笑いながらこちらを見るアスタロトに、肩の力が抜ける。 「ったく…。紛らわしい嘘吐くんじゃねえよ」 「あなたが言いますか?まあいいです。私は少し外の見回りをしてきます。」 アスタロトは椅子から立ち上がり、さっさと部屋を出て行ってしまった。 本当に、仕方のない奴だ。あいつに嘘は吐けない。
魔王城の廊下を、早足で歩く。まだ心臓が早鐘を打っている。嘘だと、わかった筈なのに。 『別れようぜ』 何気ない風を装って言われた言葉が耳に届いた時、私はその意味が一瞬わからなくなった。ベリアルさんの声が脳内をリフレインし、そこで私はやっと、自分が捨てられるのだと理解した。まあ男同士の関係など、儚いものだしなあと、冷静に答えを弾き出す私がいた。 しかし、脳内がぐちゃぐちゃになって、反応が遅れてしまった。 「おい、アスタロト─────」 ベリアルさんが振り向いて、驚いた顔をしていたので、私は相当酷い顔をしていたのだと思う。それでも、泣いて縋るなんて真似は三魔将のプライドが許さなくて、私は、「わかりました」「この関係は、終わりにしましょう」という言葉を絞り出した。すると。 「…なーんて、嘘だよ!ムルから聞いたエイプリルフールとか言う催しだよ!嘘吐いていいんだとよ!」 ベリアルさんが慌ててネタバラシをした。そう言えば、ムルムルさんがそんな催しの話をしていましたね。 見るからにほっとした顔を見せるのは嫌だったので、わざとらしく噴き出して、「さっさの態度は嘘」だと、嘘を吐いた。ベリアルさんがほっと息を吐くのが見える。 大丈夫、上手く笑えてる。 「ったく…。紛らわしい嘘吐くんじゃねえよ」 自分のことを棚上げして言うベリアルさんに嫌味を言って、私は逃げるように部屋を出た。 捨てられると思った。 嫌われたと思った。 彼は私の嫌味に本気で腹を立てているのだと思った。 でも、結果として嘘だった。嘘に騙された、とへらへら笑って流せばいいだけの話なのに。そもそも、あんな稚拙な嘘、見抜けなければいけないのに。 なんでこんなに、恐ろしいんだろうか。 この私が、あんな嘘に、心を動かされている? 「はあ、はあ、はあ…」 いつの間か走って、浮遊大陸の中心広場に来ていた。 「なんなんですか、もう…。」 こんなの私じゃない。私は冷静でいなければならない。私は、私は…。 「おい、アスタロト!」 大きな声が聞こえて、腕が掴まれた。犯人はわかっている。 「…なんですかベリアルさん。まだ何か?」 冷静になれ。冷静に。 「まだ話は終わってねえぞ!」 「はあ?」 また、嘘を吐く気ですか? 「あなたの子供騙しの嘘に付き合っている暇はありませんよ」 「ちげーよ!もう嘘じゃねえよ…なんだ、その…悪かった。」 ぶっきらぼうに放たれた言葉。私は、ぽかんとしてしまった。 だって、あれは冗談。それで済んだはずなのに。 「だから、そんなこと、わかって─────」 「わかってねえだろ」 ベリアルさんの凛とした声。 「『紛らわしい嘘、吐いてんじゃねえよ』。傷ついたんなら、そう言えばいいだろうが!」 そう言われて、どきりとした。この人の言う、「紛らわしい嘘」って、まさか。 「だから、あれは嘘…」 「まだ言うか!あんなひでえ顔して、嘘はねえだろ!」 「ま、まさか、あなた、全部…」 声が震える。 「お前が強がってたことなんかバレバレだっつーの。まあ、傷つけたのは悪かった!だからもう拗ねんな!」 そう言って、ベリアルさんは私を抱きしめた。体温が伝わってきて、心が温かくなる。ぐちゃぐちゃの感情が凪いでいく。 「…もう、仕方ない人ですね。」 やっぱり、この人に嘘は吐けません。
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