Надеемся
- ナノ -


▼ 第1話 完璧な少女

「見て…茜様よ…」
「今日も素敵…!!」
「憧れるよなあ…」

いつから、後輩や同級生から、様付けで呼ばれるようになっただろう。ちょっと恥ずかしいので、周りから聞こえるひそひそ声は、聞こえないふりをして廊下を歩く。窓から吹きこむ春の風が、学校指定のセーラー服と、後ろで一つに纏めた髪を揺らす。
私の所属するこの学校、私立春宮学園中等部の制服は、私のお気に入りだ。藤色のセーラーカラーには白いラインが三本入っていて、スカーフは、桜色。スカートはセーラーカラーと同じ色だ。鮮やかな色合いの制服を着て街を歩くと、なんだか気分が華やぐのだ。
私は、中等部の総合掲示板の前で足を止めた。人が群がっているので、なんとか間を潜り抜けて前に出る。掲示板には、「1学期中間考査成績優秀者発表」と書かれた大きな紙が貼られていて、学年ごとのテストの成績トップ10の名前が書かれている。
「あっ!茜!」
「おはよう、桃子」
人混みの中から、同じクラスの友人、姫咲桃子(ひめさき ももこ)が現れた。ちょっとミーハーでオタク趣味なところがあるが、明るくて元気、憎めない子だ。桃子は貼り出された紙を指差して言う。
「いやー、しかし茜すごいね!またトップだよ!」
桃子の指差す先を見る。そこには、三年生の順位が書かれていて、一番上には、「1位 森 茜」と、私の名前が書かれていた。しかし、さらにその横に書かれた全教科の合計得点は、2位の子と僅かな差しかない。下手したら追い抜かれてたかも。
「…まだまだ。もっと頑張らないと。」
私が呟くと、桃子は、「茜はストイックだなあ」と笑った。
「…そういう桃子だって成績第5位じゃない。」
「あー、そうみたいだね。でも茜には勝てないなあ」
「そう簡単には追い抜かせないよ」
軽口を叩きながら、人混みから脱出。すると、クラスで私と桃子がつるんでいるグループの子たちが手を振っていた。
「茜ー!桃子ー!」
「みんな、おはよう!」
サバサバした面倒見のいいお姉さんタイプの、相沢沙羅(あいざわ さら)、お淑やかで女子力の高い、寿千歳(ことぶき ちとせ)、クールだけど物知りで頼りになる、西条美月(さいじょう みつき)。この三人と私と桃子で、同じクラスの仲良し五人組である。
みんなで連れ立って教室に向かう。今日も一日頑張ろう!