- ナノ -
▼プロローグ

ーーー時々、疑問に思うことがある。





僕はこんなに幸せになっていいのかと。









「敦君、どうかしたのかい?」
僕より少し前を歩いていた太宰さんが声をかけてきた。僕は太宰さんから、おもちゃ屋のショーウィンドウに目線をずらす。歩いていたら、ふと明るい黄色が目に入り、足を止めたのだ。
黄色の正体は、ぬいぐるみだった。黄色い身体にまぁるくて黒い目。赤いほっぺが印象的な可愛らしいキャラクターのぬいぐるみだった。
「あぁ、ピカチュウだね」
僕の側に寄ってきた太宰さんが言った。
「ピカチュウ?」
聞いたことがない。
「このキャラクターの名前さ。ポケットモンスターってゲームのキャラクターなんだよ。知らないかい?」
太宰さんが解説してくれるが、生憎僕はピカチュウもポケットモンスターとやらも知らないので、太宰さんに、知らないです、と言った。
「ポケットモンスターはね、かなり人気のあるゲームなのだよ。小さな子どもとかにね。」
「そうなんですか」
小さな子どもに人気のゲーム。なるほど、こんなに愛らしいキャラクターが出るのなら、確かに人気が出るかもしれない。
ピカチュウをじっと見つめていると、太宰さんが僕の顔を覗き込んできた。
「ちょっと〜、今は私とのデート中だろう?せっかくなら私を見てよ!」
頬を膨らませて拗ねる太宰さん。その顔が可愛く見えて、僕はつい笑ってしまった。
「はいはい、ごめんなさい。行きましょうか。」
そういうと太宰さんはにっこり笑って、僕の手を握った。
突然のことに胸が高鳴ったが、なんとか平静を取り繕い、僕は太宰さんと並んで歩き出した。











ーーー時々、疑問に思うことがある。





私はこんなに幸せになっていいのかと。









カーテンの隙間から朝日が漏れて部屋を照らす。そんな中で、私はポッポの鳴き声で目を覚ます。のそのそとベッドから這い出ると、掛け布団の上で丸まって寝ていたピカチュウがぽてんと床に落ちて目を覚ました。寝ぼけているピカチュウを撫でてやり、カーテンと窓を開けると、爽やかな朝の風が部屋に吹き込んだ。窓の外には、朝日に照らされるワカバタウン。私はこの風景が大好きである。
しばらく風に当たり、ピカチュウも完璧に目を覚ましたら、朝ごはんの準備。今日の献立はトーストと目玉焼きとサラダだ。そこそこ広いリビングに手持ちたちを出して、ポケモンフーズも準備する。手持ちたちと一緒に食事を楽しんだら、後は自由時間。庭で木の実を栽培したり、ワカバタウンの外に出て、道行くトレーナーとバトルをしたり。悠々自適で、平和で幸せな生活である。なのに。
「幸せな、はずなのにね。」
悠々自適で、平和で幸せな生活のはずなのに、心のどこかで、黒い感情が燻っている。

お前が幸せになれるはずがない。
お前が幸せになれるはずがない。

そうやって叫ぶ、呪い。




考えこんでしまった私を心配してか、ピカチュウが私の顔を覗き込んできた。いけないいけない、手持ちに心配はかけたくない。

私は無理矢理笑顔を作って、ピカチュウを抱き上げた。



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