巫女戦士が行く!
- ナノ -

ピピピピピピ…!




けたたましく鳴る目覚ましの音。
私は布団から腕だけ出して、手探りで目覚ましを止めて、もそもそと布団から這い出した。そして、欠伸を一つ。ぐっと伸びをして、カーテンを思いっきり開けた。朝の日差しが眩しい。
「うーん、今日もいい天気!」




さて、ここで自己紹介をしよう。私は神在月春音。どっちかというと勉強より運動が得意で、趣味はオシャレとショッピングと友達とのおしゃべり。元気が取り柄の15歳、花の女子高生だ。
…と言っても、高校には入学したばかりなのだが。


そんな私の朝は、さっきのように、目覚ましで起きてカーテンを開けるところから始まる。それから、真新しい制服を着る。私の通う高校の制服は、まあまあ可愛い方だ。そして、そんな可愛い制服を着たら、カバンを持って一階のリビングへ向かう。
「お父さん、お母さん、おはよう!」
台所で料理をしているお母さんと、朝ごはんを食べながら新聞を読んでいるお父さんに挨拶をすると、優しい声が返ってくる。私はカバンをテーブルの横に置き、朝ごはんの支度が整った席に着いて、いただきます、と言って食べ始める。
「春音、学校はそんな遠くないだろ?こんなに早く起きなくてもいいんじゃないか?」
トーストを頬張っていると、お父さんが話を振ってきた。
「ふふ、日課があるの!」
確かに、私の通う高校は家から近い。徒歩で行ける。もっと遅くまで寝ていられる。しかし、私は早めに起きて早めに家を出るのだ。「ある日課」のために。
「ごちそうさま!」
というわけで、朝ごはんをさっさと食べ終わって流しに皿を置いたら、超速で歯を磨いて顔を洗って、そしてカバンを掴んで、いってきますと言うなり家を飛び出した。


朝の日差しの降り注ぐ中、アスファルトの道を走る。早く、早く「あの場所」に行きたい。
逸る気持ちがそのまま反映されたように住宅街を走って行き、私はある場所で足を止めた。
そこは、鳥居。奥には石段が続いていて、石段の両脇は小さな森になっている。私は鳥居をくぐった。
ここは三条神社。この町に名物ともいえる、歴史ある神社だ。そんな神社に寄ることが、わたしの毎朝に日課である。
長い石段を登りきると、本殿が見える。本殿の前に、人影が見えて、私は人影に向かって歩き出す。
境内の掃除をしているらしいその人は、ふとこちらを見て、私の姿を認めたのか、軽く手を振った。それを見て私はその人に向かって駆け出す。そして、その人の前で急停止。
「石切丸さん、おはようございます!」
「おはよう、春音さん。今日も元気だね。」
私の挨拶に、穏やかに笑って返したその人は、この神社の宮司である、三条 石切丸さん。この石切丸さんに会うのが、私の日課である。
「高校に入っても、参拝を続けるんだね。感心感心。でも、願いを叶えたいなら、神にすがるだけでなく、自分自身も励まなくてはいけないよ。」
柔らかく微笑みながら、まるで幼子に言い聞かせるように言う石切丸さん。その笑顔を見る度に心臓が早鐘を打つので、私は、「は、はい!」と答えるので精一杯だ。

そう、私は石切丸さんが好きだ。もちろん、恋愛的な意味で。

彼に惚れた日の事は話が長くなるので割愛するが、とにかく私は中学生時代から石切丸さん目当てにこの神社に通い参拝している。
「き、今日から、授業が始まるんです!石切丸さんのおかげで、気が引き締まりました!」
「おや、それは良かった。頑張るんだよ」
このように世間話をできるようになるまでも長かった。毎日欠かさず彼に挨拶してから参拝するようにしたから、その努力の賜物ではなかろうか。私はどちらかというと飽きっぽい方なのに、ここまで石切丸さん目当てで行動出来るあたり、やはり石切丸さんは魅力的なのだ。
「ならば、早く参拝を済ませなさい。遅刻してはいけないよ」
「はい!」
石切丸さんに頭を下げ、本殿に向き直る。
賽銭箱にお賽銭を入れ、鈴を鳴らす。そして、二回礼をして、二回拍手して、念じる。どうかこの恋が叶いますように!この神社縁結びの神社じゃないけど!そもそもこの神社の祭神のことよく知らないけど!
そんなことを思いつつ、一礼。
それを終えたら方向転換し、走り出す。石切丸さんに、「行ってきます!」というのを忘れずに。しかし、石切丸さんの、「走ると危ないよ!」という声にすぐ行儀よく歩き出した。





そんなこんなで神社を出て、てくてく歩いていくと、住宅街のど真ん中、人気のない交差点に出る。その交差点の、「止まれ」の赤い標識の下で、同じ高校に通う友人が待っている。
「清光、安定、おはよう!」
「春音〜、遅いよ!」
「春音ちゃん、おはよう〜」
私の挨拶にそれぞれ言葉を返す二人は、加州 清光と大和守 安定。私の幼馴染であり、親友と言える二人だ。
「もう、また例の宮司さんのところに寄ってきたの?」
清光が呆れたように言う。
「春音ちゃんにしては、続いてる日課だよねー」
安定が続ける。春音ちゃんにしてはってなんだ。そりゃ飽きっぽいけどさ。あ、ちなみに二人は、私が石切丸さんのことが好きだと知っている。そりゃ毎日恋バナに付き合わせてたら気づくか。

そんなこんなで、三人でふざけ合いながら登校する。校門で風紀検査をしている、生活指導担当かつ私たちのクラスの担任の長谷部先生に挨拶して、教室に向かう。
そうして授業を受けて家に帰る。
そんな、どこにでもいる高校生の、しかし幸せな日常が始まるのだと思っていた。




そう、この日までは。