巫女戦士が行く!
- ナノ -

ドスン、と音を立てて、さっきまで戦っていた異形の物が倒れた。
私は刀を鞘に収めて、異形の物が黒い靄になって消えていくのを眺めた。この化け物が、人の心の中に還るのか、完全に消滅するのかは、私にもわからない。正体のわからない化け物を相手にするこの仕事は、精神も肉体も消耗する。今日は、救援を呼ぶまでもなく、一人で倒せたので、まだ楽な方だ。
しかし、やらねば、人の世に危害が出る。自分たちが人の世の平和を守っているのだという自負が、私がこの仕事から逃げ出さない、一つの理由である。
そしてもう一つの理由、それが、仲間を裏切りたくないというものだ。
この仕事を共にする仲間は、正直、家族よりも大切だ。優しく温かく、強い絆で結ばれていて、「居場所」という言葉を体現したような仲間たち。そんな仲間を裏切るなど、私にはできないのだ。だから、大変な仕事だけど、新しい人手が欲しいなどと、思ったこともなかった。
最近までは。



「はあ…」
私はため息をつく。
今日こそ楽な仕事だったが、最近、違和感を感じるのだ。
相対する敵が、なんとなく強くなってきている気がする。
仲間に言っても、「気のせいだ」と笑われそうな、不確かで、小さな違和感。しかし、それは消えることはない。
なにか、なにか良くない事が起こる予感がするのだ。
おかげで、精神的な疲労が溜まっている。「表の仕事」もあるというのに、これではいけない。この違和感を取り去ってくれるものが欲しい。
そう、新しい人手が欲しくなってきた。この不安を吹き飛ばしてくれるような、新しい仲間。
こんなことを今の仲間たちに言ったら怒られそうだ。しかし、今の仲間たちだけでは不安は拭えないのだ。
無論、頼りない奴はお断りだ。この仕事は大変なのだから。
でも、もし、仲間たちも認めてくれるような、芯の強さを持つ頼もしい人物が現れたら、その時はーーー。



「まあ、現れないだろうけどね、そんな人」


口から漏れた言葉は、案外冷たく響いた。