- ナノ -




観察


私は、どうやら異世界で保護されることとなったらしい。
この世界の身元保証人らしい少女の前では大見得を切ったものの、本音を言えば理解が追いつかない。事の発端になった、私が見知らぬ誰かに成り代わられていたのだって未だに信じられないのだ。たちの悪い夢だと、往生際悪く叫んでいる私が、まだ何処かにいる。

さて、とりあえず、こんなこと考えていてもキリがないので、私の身元保証人となった少女について考えよう。

先ほどの言動から、悪い人間でないことはなんとなく感じ取れた。エスパー能力が無くても、エスパーポケモンと一緒にいたためか変に感性が研ぎ澄まされているのでわかる。ただ、勘の域を出ないので、すぐ信用するのは早計だ。様子を見ないと。ただ、ポケモンもいない今、私に自衛の手段はないのだが。

そんな少女、豊さんは、今夕食の支度をしている。申し訳程度の壁で中途半端に隔てられたキッチンからは、ぱたぱたとせわしない足音が聞こえる。「やべ、もう冷蔵庫空じゃん」とかいう声が聞こえてきたが、聞かなかったことにしよう。

彼女は何をしている人だろう。まだ未成年らしいが、ポケモンのいない世界の職業ってどんなだろう。というか、この子の親は?一人暮らしなのだろうか。

彼女は私をよく知っているらしいが、私はまだ彼女のことを全く知らない。

「お待たせしましたーご飯出来ましたよー!」

まだしばらくは、警戒した方がいいだろう。


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