それぞれの倫理観 ノーラ視点 打撃音が聞こえる。 悲鳴が聞こえる。 それらは、私の心に燻る怒りを鎮めてくれる。 「ぎゃああああああ!!」 「痛い!いたい!!助けて…!」 「も、ぅ…許して…!」 複数人の若い男女の、悲鳴と命乞いの声が混ざり合って、廃工場に響き渡る。 それをかき消すように、今回の依頼者さんは、鉄パイプを近くの男子の腹に振り下ろした。 また汚い悲鳴が響く。 「何よ!私が泣いてるのを見て笑ってたくせに!自分は辛い目に遭いたくないってわけ?!許さないから!!」 依頼者さんは、今度はその辺の女子の頭を蹴り上げた。 今回のターゲットは、依頼者さんが通う学校のクラスメートであり、クラスの中心にいるようなリア充グループだった。 ある日、彼らの中でもリーダー格の男子が、依頼者さんに告白した。 色恋に縁のない人生を送ってきた依頼者さんは、突然クラスの中心人物に告白されて驚いたが、喜んで頷いた。しかし。 ─────見たか?こいつ本気にしてるぜ! ─────あんたみたいな地味女に本気で告白するわけないじゃん! ─────馬鹿じゃねーの? 物陰に潜んでいたリア充グループが出てきて、リーダー格の男子とともに依頼者さんを嘲笑った。 告白は、「罰ゲーム」だったのだ。 怒りと悲しみで涙を流す依頼者さんを、リア充グループは散々嘲笑った。 その日から、依頼者さんは学校に行けなくなってしまった。そして、お師匠様に依頼してきたのだ。 でも、他の仕事と被ってしまい、私が担当することになった。 私は、お師匠様から教わったノウハウを生かし、リア充グループを追い詰めていった。 まず、彼らがラブホテルに入っていったり、歓楽街を歩いている様子に見えるような写真を合成で作り、売春の噂とともにばら撒いた。次に、変装して、ラップで包んだフリ◯クを彼らに渡し、その瞬間をカメラに収めてもらって、麻薬を買っているという噂と写真もばら撒いた。 彼らは、たちまち学校にも家庭にも居場所を無くした。ただ、学校の生徒たちは、リア充グループが普段から地味なクラスメートをバカにしたり、依頼者さんをいじめたことを自慢げに触れ回っていたため、彼らをよく思っていなかったようだが。 そうして、周りから白い目で見られるようになったリア充グループに、疑いを晴らすことができると嘘をついて廃工場に呼び出し、そこで拘束して復讐開始。 しかし、これ以上暴力に晒したら本当に死んじゃいそうだな。 ここで死ぬのは、"生ぬるい"。 「そろそろ終わりにしましょう!マジで死んじゃいますから!」 そうやって依頼者さんに声をかけると、依頼者さんは暴力の手を止めて、息を吐いた。 「そうですね。人殺しにはなりたくないです。復讐屋さん、ありがとうございました。」 依頼者さんがお辞儀をするので、私もお辞儀をして、業務を終了した。 「ノーラちゃん?これはどういうこと?」 私の目の前に座るお師匠様は、いい笑顔で私を見つめている。 「これ」とは、今テレビに映るニュースのこと。 凶暴なポケモンが多くいる森の中で、数人の学生が大怪我を負った状態で発見された。発見された学生たちは皆、怪我が悪化して身体に障害が残ったが、売春や麻薬密売の噂のある不良生徒だったため、誰にも同情されていないという。 ……そう、数日前にボコしたリア充グループが見つかったのだ。彼らは依頼者さんが犯人だと喚き散らしているだろうが、依頼者さんのアリバイ工作はバッチリだし、彼女の方が社会的信頼が高いため、信じる人はいないだろう。 「ボコしたターゲットをピウスやドーラに捨ててきてもらったら、"偶然"森があったんで捨てたみたいですよ。」 「ポケモンのせいにしないの!」 まるで幼い子供に言い聞かせるような、お師匠様の叱り方に、自然と背筋が伸びる。 「もう、あまりやりすぎちゃ駄目だよ。依頼者さんにも不利になるし、目には目を、歯には歯を、が一番いい復讐法だよ!」 「気をつけます。」 お師匠様は、いつも優しく教えてくれる。だから、私も素直に聞く。しかし、これだけは言いたい。 「でも、お師匠様。人に恨みを買うような奴に、人権はいらなくないですか?」 私がそう言うと、お師匠様は、「それは同意」と言ってくれた。 |