- ナノ -



最も残虐な瞬間


グロ表現注意!





「ようやく気づいたの?」
ミズホちゃんが顔を顰める。ノーラちゃんがどこか楽しげに続ける。
「彼女、貴女に復讐するためにここまで来たんですよぉ。貴女みたいな屑に時間を割いて…不憫ですよ。」
ノーラちゃんがケラケラ笑うと、スメラギはまた金切り声を上げた。
「な、なんでよ?!なんであたしが復讐なんてされなきゃいけないのよ!このあたしの願いのために、何の意味もないそいつの命を使ってあげたのよ!?感謝はされても復讐なんて─────」
「ふざけんなッ!!!」
スメラギの不快な金切り声を遮ったのは、ミズホちゃんの怒鳴り声だった。
「何が感謝よ!!私はあんたのくだらない願いのせいで、向こうの世界での幸せを全部奪われたのよ?!家族も、友達も、夢も、みんな…!!私から何もかも奪っておいて、なんであんたが幸せになれると思ってんの?!返してよ!!私の幸せを、返してよ…!!」
一通り叫んで、ミズホちゃんは泣き崩れてしまった。スメラギは呆然としている。私はミズホちゃんの肩に手を置いた。
「ミズホちゃん、立って。復讐はまだ終わってない。」
「はい…。」
ミズホちゃんは立ち上がって涙を拭い、そして、スメラギを睨みつけた。私は出来るだけ明るい声で言う。
「ふふ、これで、貴女が踏み台にした彼女がどれだけ怒ってるかわかった?貴女以外の人間にだって、それぞれの幸せがあり、心がある。それを踏みにじった貴女が、許される術があるとするなら…わかるね?」
「な…何よ!?」
「ミズホちゃん、そろそろいいよ」
「はい!」
ミズホちゃんは、ナイフを握りしめ、そして、ゆっくりと振り上げていく。ナイフがぎらりと光る。
「ひっ…!」
「目には目を、歯には歯を。」
引きつった声を上げるスメラギに告げる。そして。
「いや!殺さないで─────」
ぐさり。
ナイフが、彼女の肩を貫いた。
「ぁ、ギャアアアアアアアアア─────!!!」
スメラギの汚い叫び声が響く。ミズホちゃんに返り血が付着する。ミズホちゃん、うまく急所外したな。すごい。
「いだ…い!いたいいたいイタイ!!!」
泣き叫ぶスメラギの姿を見て、ミズホちゃんがうっそりと微笑むのが見えた。彼女はまたナイフを振り上げる。
ぐさっ。ぐりゅっ。ぐちゃっ。
「あ゛あぁああぁあぁあああ─────!!!!」
生々しい音と絶叫。ミズホちゃんはわざと急所を外してナイフを突き刺している。スメラギに出来るだけ苦痛を与えるためだ。
「あははははは!ざまあみろ!」
ミズホちゃんは狂ったように笑いながらナイフを突き刺し続けた。私はギラティナの方をちらりと見る。ギラティナは黙っているが、その目が妖しく光っている。多分、スメラギの魂と肉体が離れないように細工しているのだろう。しばらくはスメラギは苦しみ続ける。ギラティナと、ミズホちゃんが満足するまで。

「ミズホちゃん、そこまでにしようか」
15分ほど経った辺りで、私はミズホちゃんに声をかけた。ミズホちゃんがハッとした顔でこちらを見る。全身血まみれの姿は、一般人が見たら卒倒するだろう。しかし、スメラギはもっと酷い。人の原型を留めていない、ただの生ゴミと化してしまった。
「お疲れ様。満足した?」
「まだ物足りないですが…もう死んでますしね。」
ミズホちゃんは残念そうな顔をした。まあ、全ての幸せを奪われた彼女は、スメラギを何度刺しても満足することなどないんだろうが。
『素晴らしい復讐劇だったよ。みんな。この生ゴミと血は私が片付けておくよ。表の世界へお帰り。』
ギラティナの優しい声が聞こえたと同時に、辺りが眩い光に包まれた。

「あ、みんなー!」
私たちが帰ってきたのは、夕日に染まる4番道路の噴水広場。カナちゃんがこちらに走り寄ってくるのが見える。待っててくれたらしい。優しい人だ。
「おかえり。どうだった?」
「完遂したよ。」
「よかったわね!」
最低限の言葉で、私たちの意思疎通は完成する。私は、カナちゃんに笑いかけ、そして、ミズホちゃんに向き直った。
「お疲れ様。お別れだね。」
「…はい。」
そう答えると、ミズホちゃんの身体は、だんだんと透けていく。
「…え?何でよ?その子、復讐できたんでしょ…?」
カナちゃんが不安そうに私に尋ねてきた。ここまで巻き込んでしまったからには、種明かしをしないといけない。
「ミズホちゃんの三つの願いはね、『生活の保護』、『元の世界で自分がいたというあらゆる痕跡を消すこと』、そして…

『復讐に成功したら、自分の記憶を全て消し、自分の両親の元に別人として転生すること』。」

カナちゃんが目を見開く。優しくて賢いミズホちゃんが選んだ、最良の方法。知らない世界での自分の身の安全を確保しつつ、誰も悲しまないように元の世界から「自分の存在」を消し、そして、最後の願いで、愛する家族の元へ帰る。
一度死んだ以上、「ミズホ」という存在として復活はできないが、これなら、家族は取り戻せる。よく考えたものだ。ただ、家族もミズホちゃんも、その自覚はないのだが。
「そっか…今度こそ、幸せになれるといいわね…。さようなら、ミズホさん」
カナちゃんは、ミズホちゃんに優しく笑いかけた。
「ありがとうございます。カナさん。あと…」
ミズホちゃんが、私とノーラちゃんの方を向く。
「マサコさん、ノーラさん。何から何までありがとうございました。私、転生するから貴女たちを忘れちゃうけど、幸せになって、恩返ししてみせます。」
「お疲れ様でした。どうかお幸せに!」
「うん。幸せにね。さよなら。」
私たちが笑うと、ミズホちゃんは、とびきり嬉しそうな笑顔を見せて、光の粒子となり、消えていった。
あとに残されたのは、彼女に力を貸してくれたポケモンの入ったボール。この子たちは、新しい引き取り手を探す。
「さて。復讐完了、だね。」
「はい!」
「二人ともお疲れ様。今日、良かったらうちでご飯食べていかない?母さん喜ぶわ。」
伸びをする私とノーラちゃんに、カナちゃんが素敵な提案をする。
「いいの?じゃあお言葉に甘えようかな。」
「おー!夕飯代浮きますね!カナさんに感謝です!」
「じゃあ行きましょう。こっちよ」
こうして、私たち三人は、夕日に染まる4番道路をゆっくり歩いていった。カナちゃんのお母さん、優しくて料理上手だから、夕飯楽しみだな。

…カナちゃんもミズホちゃんも、「帰りたい」と願うほど好きな家族に囲まれているのが、少し羨ましかった。