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情報収集


ノーラちゃんとミズホちゃんが庭でポケモンバトルの練習をしている。ノーラちゃんと私のしごきのおかげで、ミズホちゃんの手持ちはそこそこ強くなったし、ミズホちゃん自身の指示もスムーズになってきた。
さて、私もやるべきことをやらなくちゃ。







自室に戻ると、机の上に書類の束が置いてあった。
これは、ギラティナに頼んで送ってもらった、今回のターゲットの資料。ギラティナは書類を送る時、反転世界から私の部屋に直接送りつけるのを好む。一言かけていけばいいのに。まあ、観客という立ち位置でいるからしょうがないか。
そんなことを思いながら資料を手に取った。
書類の左上には、オーシャンブルーのロングヘアに金色の瞳の女の子の写真。私は書かれている文字に目を移す。



トリッパー名:スメラギ(皇)
本名・××××。15歳。「スメラギ」は自分でつけた名前。もともと夢見がちな性格で、そこに思春期の子供にありがちな自意識過剰…いわゆる厨二病を拗らせる。夢小説に傾倒し、自分が特別な存在だという妄想に取り憑かれていて、言動も上から目線で傲慢、さらにわがまま。そのような性格から周りにも疎まれていた。○月×日、ついに現状に納得できず癇癪を起こし、家から持ち出した包丁で通行人を殺害。生贄トリップを行おうとしたのを見て、私ギラティナが殺された通行人と共にトリップさせた。容姿変更のサービスは使用済み。

三つの特典は以下の通り。

1.最強補正
2.高個体値ポケモン、色違いポケモンとの遭遇率UP
3.こちら側で用意する旅の道具に上乗せして、ゲーム内でのお金や道具の引き継ぎ








「…なるほどね。」
今回もまたコテコテの生贄トリッパーだ。カナちゃんが見たら腹を抱えて笑うだろう。私は夢小説、というものを読んだことがないから、仕事でしか生贄トリッパーを知らないが、それでもわかるくらいコテコテだ。だいたいスメラギってなんだ。名前にするのはおこがましすぎるだろ。
それにしても、「上から目線で傲慢」ね…。なんか、「アイツ」を思い出して嫌だな。
上から目線で傲慢、わがまま、そして狡猾。そんな、いいところなんて一つもない奴だった「アイツ」。
「アイツ」の顔が頭に浮かんできて、イライラしてきた。いけないいけない、今は仕事に集中しなくては。
私は資料を改めて見直す。この女は特典を見る限り、「最強主」に憧れたらしい。ゲーム内でのアイテム引き継ぎはともかく、残り二つの特典がそれを物語っている。そして、この二つの特典が、この復讐を完遂するために重要になってくる。
まずは、「最強補正」。
この世界における、逆ハー、最強…あらゆる「補正」は、「補正さえ神様に頼めば全自動で働く」というものではない。人間の持つあらゆる能力と同じく、「補正を使いこなす努力」をしなければ使い物にならない。例えば、逆ハーなら人に好かれる努力を、最強なら強くなる努力をしなければ働かないのだ。その点、今回のターゲットみたいな奴は補正に頼りきって努力をしないので、補正があっても恐るるに足りない。一応トリップ前に補正について説明されるのだが、夢に溺れて人に迷惑をかけるような奴に、「人の話を聞く」なんて常識は存在しない。
しかし、もし万が一、この女が強くなる努力をしていたら?最強補正が働いていたら?そういう場合が面倒なのだ。私もノーラちゃんもミズホちゃんも、ポケモンは鍛えているが、最強補正はない。最強補正に敵うとは限らないのだ。非常に面倒くさい。しかし、あらゆる状況に対応しなければならない。どうするべきか。
さらに、二番目の特典である、「高個体値ポケモン、色違いポケモンの出現率UP」も、最強補正と合わさると厄介だ。ポケモンにはそのポケモンにあった立ち回りの仕方というものがある。それを知ろうともせずただ攻撃を繰り返すだけのトリッパーなら、宝の持ち腐れでやっぱり恐るるに足りないのだが、最強補正を鍛えているとすれば、ポケモンごとの立ち回りもわかってしまう。
とにかく、最強補正と出現率UPがちゃんと機能しているとしたら、私たちは一気に不利な状況になってしまう。
「どうしたもんかなぁ…」
思わすため息を吐いてしまった。あらゆる状況に対応して復讐を完遂させるのが復讐屋の仕事。弱音を吐いている場合じゃない。

さあ、プランを考えないと。