- ナノ -


その2

そうして私は、この暗い冥府の底で、ニンフとしての人生を過ごしてきた。
体はそれなりに成長し、私が前世で死んだ時くらいの年齢に見える見た目になったが、明らかに前世より長い時間を生きている。ニンフは長生きなのだ。
おかげで、この世界に来てからの、前世よりは多分綺麗な容姿にも慣れてしまった。いきなり青い瞳になっていたからかなり驚いたのだ。髪が黒いままで良かったと思う。
まあ、昼も夜もないタルタロスで、正確な時間まではわからないのだが。
ただ、長い時間を経ても前世の記憶は薄れないし、性格も前世で死んだ時期とあまり変わっておらず、小さい頃は「冷めた子ね」と仲間たちを呆れさせていた。
私はニンフにしては強い霊力の持ち主で水や氷を自由に操れるらしく、小さい頃から一人で練習していたので、ストイックなどとも言われた。



しかし、この陰気な場所でも、仲間のニンフたちは陽気だった。自分たちがタルタロスの太陽だとでも言わんばかりに、歌やダンスに興じて、どんちゃんやっている。私は歌やダンスを楽しむ趣味なかったため、いつも見物しているだけだったが、「まあ趣味は人それぞれよ」と笑って私を仲間外れにしたりしなかった親切なニンフたちにも、彼女たちの明るい歌声にも、私は救われていた。
さもなければ、どんな原理かは知らないがぼんやりと光を放つ氷塊や岩を除いては明かりのないこんな場所にいたら、心を病んでしまう。そうならなかったのは、仲間たちのおかげだろう。タルタロスから地上に出るのは骨が折れるので、仲間の中でも古参の者が、定期的に僅かばかりの食料や生活必需品を調達する目的でしか出て行かない。まだ若いニンフである私は危険だと言う理由で地上に出れないのだ。

素敵な仲間に囲まれてはいるが、閉じられた空間で、毎日同じようなことの繰り返し。前世はもっと自由があったから、退屈なことは否定できなかった。







そう、あの日までは―――

[ 5/7 ]

back