×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


「あ、」


ある日曜日。街の美術館の入り口で、怜はつい声を上げた。なぜなら、目の前に見知った顔があるからだ。
「あら、竜ヶ崎君!」
「みょうじさん…」
そう、怜に猛アタックを仕掛ける少女、みょうじなまえである。
「どうして、ここに?」
「美術館にいるんだから、絵を見に来たに決まってるじゃない。今やってる個展、好きな画家さんのものなのよ」
意外に真面目な彼女の返答に、怜はそりゃそうだ、と思った。てっきり、「運命が私と竜ヶ崎君を引き合わせたのかしら」なんて言われるのかと思ったのだ。しかし、「好きな画家だから」とは。美しいものが好きでも。特に好きな画家とかはいない怜からすれば、「さすが美術部」としか言いようがない。
「僕は、チラシに描いてあった絵が美しくて気に入って…。」
「しっかし、こんなところで偶然会えるなんて嬉しいわ。運命が私と竜ヶ崎君を引き寄せたのかしら」
前言撤回。やはり彼女はふざけていた。怜はため息をつく。そんな怜の心中を知ってか知らずか、なまえは続ける。
「ねえ竜ヶ崎君、良かったら、一緒に廻らない?」
「え?」
「別にいいでしょ?」
「はい、まあ…」
なまえねや勢いに押され、つい怜は頷いてしまった。特に断る理由もないし、と、怜は自分を納得させた。



絵を、一つ一つ立ち止まってゆっくり鑑賞する。怜は、それぞれの絵の美しさに嘆息した。これはなまえも好きになる、そう感じる絵ばかりだった。ちなみに、肝心のなまえだが、普段ふざけているのが嘘のように静かにしている。二人の間に会話はない。しかし、怜はこの沈黙が心地よく感じた。
果たして、二人は一際大きな絵の前に出た。美しい風景画だ。怜はまたため息をついた。そして、ふと隣にいるなまえを盗み見た。
彼女は、絵に見入っていた。うっとりとした顔で、その瞳には、絵のみが映し出されている。普段は竜ヶ崎君竜ヶ崎君とうるさいくせに、僕は無視か、と怜は思った。それと同時に、彼女のうっとりとした顔が、輝く瞳が、怜の目にはとても美しく映った。怜の胸が高鳴る。まるで、この間スケッチを頼まれたような心地になった。
「竜ヶ崎君?」
なまえの声に、怜ははっとした。気づけば、なまえはこちらを見てきょとんとしている。
「どうしたの?ぼーっとして」
「い、いえ!なんでもありません!」
ぼーっとする僕なんて美しくない!と、怜は脳内を支配するなまえの横顔を無理やり打ち消した。
しかし、結局はその横顔が蘇ってしまい、怜がこの後絵に集中できなかったのは、言うまでもない。




prev - 3 - next