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「外が賑やかですね」


ふと、ゴヨウさんが呟いた。私はアイスを舐めながら耳をすませてみると、どこからか笛と太鼓の音色が響いてきた。これは…。
「多分、近所の神社ですね。」
「神社?」
「はい、確か今日、お祭りだった気がします」
そう、今日はお祭りなのだ。こないだ買い物に行った時、街の掲示板にもお祭りのチラシが貼られていた。まあ、小さなお祭りだし、この歳にもなってはしゃいだりはしない。
「この世界にも、夏祭りがあるんですね。」
ゴヨウさんがしみじみと言った。
「ポケモンの世界にも、夏祭りがあるんですか?」
「ええ、ありました。」
そんな問答のあと、ゴヨウさんは突然もじもじし始めた。
「ゴヨウさん?」
「あの…なまえさん、私、お祭り、行ってみたいです!」
「え?!」
突然のゴヨウさんの申し出に、私はびっくりしてしまった。ゴヨウさんは、この世界に怯えている。こないだ一緒に買い物に行った時も、ポケモンのいないこの世界に凄まじいストレスを感じてしまい、帰ってから大泣きしたくらいだ。そんなゴヨウさんが、なぜお祭りに行きたいなどと言い出したのか。
「ゴヨウさん、この世界が怖いんじゃ…」
「確かに、この世界は怖いです。でも、だからと言ってなまえさんの陰に隠れて守ってもらってばかりは嫌なんです。あと、やっぱりこの世界のことが知りたいんです!」
「ゴヨウさん…」
この人は、なんて健気なんだろう。精神的に追い詰められているだろうに、それでも前に進もうとしている。ならば、私はそれに応えなければ。
「よっしゃ!それなら行きますか!!」


という訳で…。


「わあ、結構賑わってますね!」
夜。私とゴヨウさんは神社にやってきた。屋台の明かりが夜の神社を照らし、お祭り独特の空気を醸し出している。やはりお祭りのこの空気はいいものだ。これで浴衣でも着ていれば風情があるのかもしれないが、残念ながらうちにそんな風情のあるものは無かったので、私もゴヨウさんも普通に洋服である。ゴヨウさんはウィッグ付きである。
それはさておき、ゴヨウさん、神社に向かう道では緊張した面持ちだったのだが、今はどうだろうかと振り返る。
「ポケモンがいないこと以外は、あまり私のいた世界のお祭りと変わりませんね。」
ゴヨウさんは穏やかに言うと、あたりをキョロキョロと見回している。良かった。なんとか慣れてきたみたいだ。
「ゴヨウさん、何が食べたいですか?」
「なまえさんの食べたいものを」
そんな会話を交わして、私とゴヨウさんはターゲットをたこ焼きに決めて、屋台へと歩いて行った。



「たくさん食べましたねー!」
「食べ過ぎました…」
そうして、たこ焼き、カキ氷、フランクフルトなど屋台のグルメを満喫し、今私たちは、神社の石段に座り休憩している。結局食べることばかりになってしまって、自分の食い意地がちょっと恥ずかしい。
「なまえさん」
「はい?」
笛と太鼓の音色を遠くに聞きながら、ゴヨウさんがおもむろに口を開いた。
「確かに、私はまだこの世界が怖いです。だけど、あなたと一緒にこうして出かけると、外に出るのも悪くないな、と思えます。今日は、ありがとうございました」
ゴヨウさんの笑顔が、提灯の明かりに照らされる。それがロマンチックで、さらにかけてもらった言葉が嬉しくて、私の胸は高鳴った。
「いえ…私も楽しかったです。」
今日はこのあと、花火でも買って帰ろうか。私は、ゴヨウさんにまたお出かけしよう、と言いたい気分になるのを感じながら、石段から立ち上がった。




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