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開店前


「そこ!きびきび動け!」

都内某所。開店間際だというのにちんたらしていた奴に一喝したのは私、苗字名前。
この大都会に存在する数多くのホストクラブのうち最も有名(だと信じたい)な4店舗を統括している。
しかしやはり4店舗も経営しているというのは楽ではない訳で。

「名前、この間買い置きした氷がどこにあるか解るか?」
「なんだ承太郎、氷なら厨房の一番大きな冷蔵庫の隣に新しくした冷凍庫があるだろう」
「あぁ、あれか。ありがとう」

「名前さん、立て看板が無くなって...」
「花京院、お前の隣にあるそれはなんだ」
「あっ...すいませんありがとうございます」

「名前さーん」
「名前」
「名前ーー!」

「やかましいぞお前ら!!久々に私がこちらへくるといつもこうだ!!私ばかりに頼るな!私はいないものと思え!」

開店前、閉店前、営業中は4店舗を毎日順番に回っているのだがどうも私が行く時は毎回決まって私を頼りにする。それは残念ながらこの店舗に限っての事ではない。
その上私がいない時はすごくテキパキやるというのだ。裏口から様子を見に行かせたスージーQが言うんだから間違いはない。
しかし私が見回りをしなくなる訳にもいかない。どうすればいいんだ。

「シニョリーナ、随分と疲れきっているように見える。俺の隣で休んでいかないか?」
「誘いは嬉しいが生憎私も暇じゃないんでね。そういうのは客が来てからやるんだな」
「でも俺にも疲れてるように見えるッスよ。」
「誰のせいだ、誰の....」
「あんまり疲れてるようなら無理はしないようにね」
「あぁ、ありがとうジョナサン。気持ちだけ受け取っておこう」

そんな茶番を繰り広げていると、外からキャピキャピした声が聞こえて来た。

「さあ、開店だ!お前ら、気を引き締めて臨め!」
「「はいっ」」

パンパン、と手を叩いて店内に声を響かせると一気に雰囲気はガラリと変わる。
この瞬間だけは威勢がいいんだけどな、と呟くと隣で花京院が皆名前さんが大好きなんですよ、と返す
勿論私も自分の部下が大好きだ。そう言ってみせれば、満足そうに笑ってくれた。


「「ようこそ、エトワールへ!」」

私達の忙しい一日は、夜から始まる。
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