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華塗れ


「シーザーたち帰って来ないね」

「うん」

このやり取りを何回繰り返しただろうか。

「スージーQは心配じゃない?
 あんな短期間であんな厳しい修行してたってことはきっと私達の思うより凄い事に首を突っ込んでるんじゃないかって」

「ジョセフは、絶対戻って来るって言ってたし、私たちは待つしかないんじゃないかな」

私とスージーQはリサリサ様に仕えている使用人であって、それ以上でもそれ以下でもない。
まあ、私はというとついこの間シーザーと恋仲になって、やっと想いが通じて、とっても幸せだったんだけれど。
見た所スージーQはどうやらジョセフを想ってるようだし、私から見ればきっと彼らは両想いなんだろうなあ

「強いね、スージQ」

「ううん、そんなことない。名前の方がきっと辛いと思うもの。」

彼女はそう言うけれど、私なんかよりスージーQの方がよっぽど強いと思う。
ジョセフの戻って来るっていう言葉を信じてただ待ち続けていられる。
スージーQにエシディシ?とかいうのが取り付いた後だって、最初こそ醜い姿を見られたくないような素振りだったけれど、少し時間が経てばもう彼女は毅然としていて。


それに比べて私はどうだ。

あの時、何もできなかったのは私だけだった。一人でパニックになって足は震えるくせに一向に動かなかった。
いつどこでシーザーが他の女の子を口説いてくっついて帰って来てもおかしくないとか、私はこんなに淋しいけれどシーザーは私がいなくて淋しいと思ってくれているのかとか、もしも、もしも帰って来なかったら、とか。
毎日そればかり考えて不安で不安で、どうしようもなくなって、毎晩枕を涙で濡らす。
とってもとっても弱い。

想いが通じたあの日でさえ、シーザーは私に愛の言葉をくれたけれど、もしかしたらその言葉は使い古されてしまったものかもしれないな、私も使い古されてすり切れていつか気付けばゴミ箱に捨てられている一人なのかもしれないなって心のどこかで考えてた。



苦しい、苦しいよシーザー。











+++++



あれからどれくらい経っただろうか。
ジョセフは宣言通りスージーの元へ返って来た。彼らしいと思った。

けれどそこに心配だったあの人の姿はなかった。

ジョセフは申し訳なさそうに、苦しそうに、彼の死に際と、自分の不甲斐なさを責めていた。

私はその場で崩れ、泣きじゃくって、慰めてくれようとしたスージーQの手を振り払って、一人、屋上で一晩泣き明かした。
そこは初めて私がシーザーと出会った場所で、涙が溢れて止まらなかった。


次の日彼らに謝罪してから、私はずっとどこかを虚ろな目で見つめて、日々をただ淡々と過ごしていた。

シーザーのお葬式の日、彼を救ってくれなかった憎らしい神様に、私の足がきちんと、震えずに、普段通り動くように願ってから家を出た。

それでもやっぱりお葬式の内容なんて頭に入って来なくて、もうその時は涙すら流れなくなっていて。
これじゃあシーザーに嫌われちゃうな、って心の中で呟いたら一粒だけ涙が出た。
たったそれだけ。







もう誰もいなくなったお墓の前で、私はまだ残っていた。

「ジョセフはきちんと戻って来たんだけど。ねえ、なんであんたはそんなとこで寝てるの」
「私を散々心配させた挙げ句返事はないの?」
「あんたのために育ててたヒマワリもとっくに枯れちゃったわ」

いくら不満を言ったって返事なんか一向に返ってきやしない。

「ばか、シーザーのばか、ろくでなし、うそつき、」

シーザーを埋める時でさえ流れなかった涙が今になってまた、溢れ出す。
生暖かいものが頬を伝うのがすごく不快だ。

「ジョセフとスージーQは結婚したの」
「私、すごく待ってたのに、」

声にならない声で思い切り言ってやる。
今まで貯めてた心配も、やりたかった事も、全部、全部






「やっと言ってくれた」




聞こえる筈のない声、見える筈のない姿、なんで、あなたが、ここに

「折角付き合っても名前は自分の不満を何一つ言わなかったからなあ」

「え、あ...」

「俺がここにいる事が信じられないって顔してる」

「だって、」

「俺だけのシニョリーナが泣いてるんだ、慰められるのは俺しかいないだろ?」

「あ...あ.........」

私は何も言えなくて、生まれたての赤ちゃんみたいに泣いて、出て来る声は母音ばかりの拙いもの。

「いつか、迎えに行ってやるから。それまで俺はずっと名前の傍にいるから。」


その瞬間ふっと肩が軽くなった気がして。
目の前には何事もなかったかのようにいくつものお墓が広がっていた。


















+++++

シーザーちゃん追悼文
この間やってた一挙放送で父親がいるのに遠慮なく泣きまくったので。
暇があったら続きも書くます
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