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 私はロケット団の幹部様の元で忠実によく働くしたっぱだ。今日もランスさんの元でいつもと同じようにテキパキとデスクワークをこなしている。

「ランスさーん、この書類サインください。」
「ななし……お前はこのたったこれだけの書類に何時間かかったと思ってるのですか。」
「えっとそれは、ですね」
「ただでさえマヌケな顔が更にマヌケになっていますよ、口の端……」

「え、うっそよだれの跡ついて…!」
「白状しなさい、なにをしてたんですか。」

しまった。ランスさんに騙された。きっと私の口の端にはよだれの跡なんて残ってはいない。畜生さすがロケット団で最も自称冷酷なランス様はどんな手段も問わないのですね。

「だって昨晩帰ってきたばっかりですよ私……寝かせて下さい」
「そんなことは知りませんアポロに言いなさい。それからそのアポロが呼んでいましたよ、早く行きなさい。あと帰ってきたら反省文。」
「へいへい……」

自称じゃなくてランスさんは冷酷なのかもしれない。優しさのかけらもない酷い上司である。

* * *


「ななし、エンジュへ行きなさい。」
「なんですかまた急に。」
「任務ですよ任務、それくらいわかりますよね。」
「え、ただ単純に私に会いたかっただけかと思って全くアポロさんはさみしがり屋さんだなあ……と思って来てやったんですが違うんですね。」
「そんなわけないでしょう、あなた馬鹿ですね」

 任務という言葉を聞きあからさまに顔を歪めた。それから私は自覚している、馬鹿だということは……!悔しい。それをアポロ様に言われると余計へこむ。その言葉を発した本人は顔を歪めた私を見てはため息を吐くが特に指令を変えるわけでもなくただ私を見つめ、返答を待っている。そんな整った顔立ちで見つめられたら女の子はイチコロですよ!

 急にロケット団最高幹部である彼に呼び出されたと思ったら次はエンジュシティへ行けという指令に対し不満を隠せない。なぜなら私は昨日カントーから帰ってきたばかりだ。何故私はこんなにも外へ外へと次から次へと任務が下るのだろう。アポロ様は遠まわしにアジトに居ると邪魔だと言いたいのだろうか。今日はアテナ様とお茶がしたい気分だったのに畜生……今の私は傍ら見たらロケット団下っ端とはなかなか思えない様子だろうか。

「いつもこういう仕事は私にさせるんですね」
「そういう文句はデスクワークを真面目にこなせるようにしてから言うことですね。」
「アポロさんはもっと外へ出た方がいいですよ、なんだか引きこもりみたいに肌が白いですし。」
「いつもあなたはそうやって……、楽しいですか。第一私はたくさん仕事があるんですよ、デスクワークをこなせないあなたにはできないような仕事が山ほどね」

別に私は特別デスクワークが出来ないわけではない。やらないだけだ。アポロさんをいじるのは楽しいからだ――行きなさい。言葉は発さずとも彼の青い瞳がそれを促す。ななしは観念したかのように、仕事の内容はなんですか?と面倒くさそうに聞いた。

「エンジュに纏わる伝説のポケモンの話を調査してきてください。」

* * *

 エンジュシティへ着いた。あいにく私は上に乗れるほど大きな鳥ポケは持っていないので自転車乗り継いできた、目立つので団服も脱いでちょっとした旅に恋するトレーナー気分だ。エンジュシティはというと舞妓さんが歩いていたり奥の方には高い塔が二つ聳え立っていたり、なんというか自然豊かな古風な街でうるさい上司のことも忘れ日々の疲れを癒してくれるような気がした。すっかり外観を見つめ観光気分だ。いけないいけない、仕事だった。

「でも伝説のポケモンって言っても…なあ」

そんなの団の資料でもなんでも使って調べられないものなのか。わざわざここまで来て調べて何か得られるようなことなのだろうかなどと疑問に思いながら歩いていると、目の前には古びた塔。古びたというか――焼け焦げたような。途端に好奇心がくすぐられた。何かわかるかもしれないし、入ってみようかな!

「うわあ……」
 
塔の中は歩くたびに足元からぎしぎし聞こえ焼け落ちた柱も多く、埃と灰の匂いがものすごい。不気味だ。塔の奥の方までくれば心なしか寒さもすごい。冬の寒さとかではなくこれは悪寒とかそういう類のものだ。ゴーストタイプとかかな……気がつくと足元が、燃えていた。燃えていた?いや、周辺全体が火に包まれていた。

「キリンリキ、」

――みやぶる。

とんでもない所に迷い込んで来てしまったかもしれない。火は幻であったがそこから現れたはゴースやゴーストがこちらを睨みつける。どうやらここはゴーストタイプの巣窟らしい、しかし私の手持ちでゴーストタイプに対応できるのはキリンリキだけだろう。今更自分の好奇心を恨むことになった。どうしようかとゴーストポケモン達との睨み合いを続けていると、一瞬のうちにゴースがこちらへ襲いかかってきた――まずい。

「なにをやっているんだい」

ぴたり。ゴースの動きは止まった。人だ、声の主は金髪でヘアバンドをしてマフラーをしている青年。……ムウマージ?私が不思議そうに彼を見つめていたらゴーストポケモン達は彼の元へ集まった。

 一体何者なんだこの人は。只者ではない雰囲気を感じ取れた、ただのトレーナーではないだろう。彼からはとても優しさと気品に満ちあふれその中にある力強さを感じた。容姿もそうだが雰囲気が美しいとか麗しいとかそんな言葉が似合う男性とは初めて会ったような気がする。私の上司も容姿だけは美しいがただの冷酷と軟弱系男子だ。そんな少しだけ邪な目で彼を見ているとその視線に気がついたのか、彼はこちらを見た。

「君はどこから何をしにこんなところへ来たんだい?」

あれ、これはまずいのか?

(20111229)



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