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 明日は運命の日であった、来てほしくもなかった運命の日。そう、学生にとって何よりも憂鬱なイベントの一つテストの日なのだ。本当にテスト前だけは泣きたくなるというか、もう死にたくなっても可笑しくないくらいだ。時計はもう十二時を回り私はラストスパートに入るところであった。


「ななし手が止まってるよ?」
「ああ何故だろう、きっと疲れているのかなあ、幻聴が聞こえる。」


そうえば昨日もほぼ徹夜してしまったしなあ、二徹は辛いなあ……でもどうしてだろう、よりによって一番聞きたくない男の声が聞こえた気がした。末期症状以外の何物でもないな、寝たい。


「ななしは僕の声がが目を閉じたら聞こえるほど僕のことを愛してくれているってことかい……?嬉しいよ!遂にななしのデレ期が来たよ、これより待ち望んだことは何一つない!」
「何故ここにいるんですかマツバ先輩」


正直、幻聴であってほしかった。そして私は目を閉じてはいない、必死にノートと向き合っていたよマツバ先輩。いやしかし幻聴であっても彼の声は聞きたくないかもしれない。


彼はマツバ……先輩。一応、形だけだが私のひとつ上の先輩だったりする。信じたくないがそれは仕方がないので認めようと思う、むしろ先輩という一線を越えたないと思う私にとっては好都合なのかもしれない。しかし、彼はなぜか私に付きまとう気味の悪い(趣味も悪い)輩だ。俗に言うストーカーである。



「なぜかって、それはななしの虜だからだよ!」
「先輩、もう日付代わってますが」
「もう大人の時間だと言いたいのかい?ななしも積極的になった――「常識的に考えて人の家に滞在する時間ではないと思いますが」おっと、そんなことか!僕と君の仲じゃないか」

どんな仲だ。他人だ他人。一歩譲って先輩後輩でしかない。どうやらこの人には日本語が通じないようだ。なんだかテスト前の憂鬱な気分に、相乗効果で彼の鬱陶しさに涙が出そうになった。何故こんな男に目をつけられたのだろう、心当たりなどない。


「マツバ先輩……?勉強したいのでとりあえず黙っていただけますか。」
「おっと、それは遠まわしに"そばに居て欲しい"というななし特有の照れ隠しだね?」


無視してペンを進めることにした。すると彼は黙ってくれた……案外物わかりはいいのかもしれない。しかし彼は常識も通じない奴だった、物分かりってなんだったかな、私の常識の定理があやふやになっていく。

ところで、この人はテスト前に勉強というものをしなくても平気なのだろうか?突っ込みどころが有りすぎて何処から突っ込んで良かったかわからなかったが、それだけがどうしても気になった。正直他はどうでも良い気がする程度には気になる。
だが、一度話し始めると彼がせっかく黙ったのに、うるさくなりそうで考えるだけでそれは恐ろしいので、私も勉強に集中した。


集中して何分だろうか、私が異変に気がついたのは。妙に彼が静かだなーと思い、勉強を一度やめ周囲を見渡すと彼がものすごいスピードで部屋の中を物色して、私の私物を袋に詰めようとしていた。



「不法侵入だけじゃ物足りず、窃盗までするんですか。完全にドMですねマツバ先輩は」
「え、放置プレイの次はSMプレイかい?そんなななしが好きだ!だから好きなだけ罵ってくれ!」
「罵りません。とりあえず私の私物を触らないでください。匂いも嗅がないでください。というか見ないでください。そこにただ座っていてください。でなければ出て行ってください。」


そういうと、珍しく彼はしょぼんとして、「いいよわかった」といい私のベットに腰をかけた。黙った。というかいじけた。まじまじと、黙り落ち込む顔を見てみればただのイケメンだった……しゃべらなければ、であるが。いや寧ろ私にしかこんな一面は見せない。だから彼は一応女性にもてる。私は全く興味もないのだが。寧ろ彼の本性を多くの女性に教えてやりたい――彼は不法侵入やら窃盗やら平気でしようとするストーカーですよ、と。そんなことを考えていると時間が少しずつ過ぎていくのを感じた。いけないいけない。下らない思考はシャットダウンして、勉強を再開することにした。


* * *


ちゅんちゅん、とまるで漫画のような小鳥のさえずりが聞こえた。

「……あれ」


完全にやらかした。意識が途中までしかない。私に二徹は無理だったのか。彼と下らないSMだの放置だのの話しをしていたのは覚えている。その後多少、数学の勉強をしたはずだが……問題が途中で終わってる。おかしい。これは夢だ。マツバ先輩が作り出した悪夢だ。

「ななし、おはよう」

目の前にマツバ先輩が居た。頬を抓ると痛かった。訂正です。小鳥のさえずりなんて可愛らしいものではなく悪魔の笑い声だったらしい。



「マツバ先輩……!なぜ!どうして!起こしてくれなかったんですか!」
「だってだってななしがそこにただ、座っていてくれって頼んだんだろう。僕は忠実に言いつけを守っただけだよ。」
「なんでこういうときだけ素直なんですか!」
「えっと、じゃあ、僕が、教えてあげようか?勉強。」
「……は?」




赤点注意報発令中
( 大丈夫優しくするから )
( 警報にならないか心配でしかたないです。 )
( マツバ先輩は学年トップクラスの頭脳の持ち主だった。なんだかショック )

(2011 1227 加筆修正)
(旧サイトより移動)






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