「ランスさーん」
「なんですか」
「アポロさんから告白されたんですけど」
ななしからの思いもよらぬ一言に作業の手が止まった。まさかアポロがこいつに告白だなんて、ありえない。というかわざわざ私の元にまで来てそれを言う必要性は何処にあるんだろうか。仕事はどうした仕事は。
「何故それを私に言うのですか」
「え、返事どうしようかと思って」
手を止めて損した。彼女の行動は全く持って意味がわからない。自分に対して恋愛相談とか、何を考えているのだろうか。そういう話には向いていないとわかっていて私に相談するなんて、彼女は相当な馬鹿だと思う。いや馬鹿だ。
「正直にいえば良いじゃないですか、 付き合いたいならYESと、付き合いたくないならNOと。」
机に向ったまま言い放った。それくらいしか私には言えなかった、というか正直微妙な心境である。もしもアポロと彼女が付き合うことになったら、なんとなく嫌悪感があるのは何故だろう。
「いやー悩んでるんですよねえ」
「とりあえず仕事したらどうですか」
はーい、と不貞腐れたように返事をして彼女は自分の作業スペースに戻ろうとした、が。
「なんですかランスさん」
無意識に彼女の袖をつかんでしまった。沈黙が流れる、何をしてしまったんだろう、自分から仕事に戻れと言っておきながら引き留めってしまった。
――返事、どうするんですか。ちょっと小声で訊いてみた。すると彼女は驚いたような顔を一瞬したすぐにいつもの表情に戻り、関係ないじゃないんですかとほほ笑んだ。
「関係、ありますよ。あの、そのななしのこと気になってますから」
2度目の沈黙が流れた。と思ったらななしは盛大に笑いだした。
「な、何がおかしいんですか」
「あはは、ランスさん今日何の日か知ってます?」
手元にあったデジタル時計を確認してみた。4月1日12:02、4月1日って……エイプリルフール。四月馬鹿。ああ、だから彼女は盛大に笑って涙目になっているのか。
「何遊んでるんですか2人とも」
アポロが通りかかった。何事もないように、ななしが言っていたことは嘘だと物語っているように。
「なんですかランス、そんなに私の顔を見つめて」
なんでもありません、そう顔を合わせず言うと、彼は仕事をしなさいと数分前私が言ったように言い残してその場を去った。
「で、ランスさん。さっきのはエイプリルフールネタですか?」
「なんでもありません、忘れてください」
「そんなこと言わないでくださいよ。……ねぇ、ランスさん」
自分の馬鹿さに呆れて、ななしの顔を見れず俯いたまま会話をしていたら、急に彼女の言葉が止まった。どうしたのだろうと思って彼女の顔を見ると、
「付き合いません?」
仕方ないので今日はとことん騙されてやりましょうか。
エイプリルフール (April Fool's Day) とは、毎年4月1日には嘘をついてもよい、という風習のことである。またイギリスなどでは、4月1日の正午までに限るとも言い伝えられている。英語の "April Fool" は、4月1日に騙された人を指す。
(2010 1227 加筆修正)
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