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「あけましておめでとうございます」


 ビックリした、本当にビックリした。日付が1月1日になり新しい一年を迎えた頃家に客人が来た、というか付き合ってる彼、ランスなのだが。全く新年だからってなんでも許されるわけじゃないでしょう。来てくれるのなら前もって言っておいてくれれば準備もしたのに、私は今パジャマ。こんな姿見られてしまったことが多分一番恥ずかしい。


「どうしたんですかこんな時間に」
「新年の挨拶ですよ、挨拶。ついでに親御さんにでも挨拶しておきましょうかねえ」
「意味がわかりません」
「まぁ冗談です。ちょっと出かけましょうよ」


 彼がそんなふざけたことをさらりと、軽い笑みで言うものだからどうしていいか反応に困った。新年から彼に会えたことに喜ぶべきなのか、からかったことを怒るべきなのか、親御さんに挨拶だの何だの言っていることに対し照れればいいのか。いろんな感情が混ざり合って不思議な気分だが、とりあえず私は彼に会えて嬉しいのだろう。

 とりあえず彼には3分待ってもらい、私はマッハで家の中を駆け回った。母に「どこいくの」と声をかけられたが「友達と初詣」と答えて部屋を出た。寒空の下、これ以上彼を待たせるわけにはいかない。




「おまたせ……しました」
「3分14秒」
「誠にすいませんでした」
「まっいいですけど」

 まあ、いいです。とこちらを見ずに彼は歩きだした。何がしたいんだろうこいつは。いくら1月1日だからと言って年頃の女の子を行き先も告げずに外へ連れ出すだなんて非常識だろう……しかも呼び出しておいてほとんど相手にしてくれないとは、そりゃ悲しいと思いませんか。


「ななし」
「ん?」

「なんでもありません」
「なにそれ」


そんなやり取りをして私達は町のはずれの方へと歩いていく。あたりは市街地よりも一層暗く――なんだか不気味だ。本当に彼は一体何を考えているのだろうか、などと考えてもわからないであろう難題を必死に考えながらもそっと彼の表情を伺う。――わからない。先程の会話から彼と私との会話は一切ない、相変わらず無言だ。とても気まずい。彼は前を向いて、私はその後ろを俯いて歩く。声をかけようとするも話題がない、どうする私。


「ななし」
「えっ、あっはい」


 頭の中ではぐるぐると彼の思考を見抜こうと必死な中、名前を呼ばれて驚き彼の方を見る。いかん挙動不審だ。彼は私の眼を見て指を上に向けた。……上?


「うわあ……綺麗」

 星が、見えた。普段気にも留めなかったが、冬の星空はとてもきれいなようだ。

「すごいでしょう?」
「うん、すごいけど……」
「けど、なんですか。」
「星って言ったら夏に見るイメージがあったから」


 夏の大三角形とか、さそり座とか、いて座がとても有名なイメージがある。友達が夏ごろになると星を見に行ってきたんだ、という報告を聞いたりしていた。そういう面から夏の夜に星は見る、というイメージがある。――単純ですねえ、と彼は小馬鹿にしたように彼は言う。馬鹿にしなくたっていいじゃないか。


「いいですか、冬というのは1年で最も星がよく見えるのです。1等星が夏の二倍もあって夏の夜空よりも明るい星が多い。それから、秋から冬にかけて――……」

 と、彼は実際に夜空を指さしながら、冬に有名な星座の名前まで教えてくれた。私にもわかりやすく、だ。果たして彼は天体観測が趣味だったのだろうか。私は彼の意外な一面を知った、というか恋人としてそんなことも知らなかったのか。いやでもしかし……悪いが彼は星の似合う男ではない、あくまでも私の勝手なイメージだが。そこで私は思い切って聞いてみた。


「ねえ、ランスってそんなに星に詳しかったっけ?」
「……ななしと一緒に見たくて調べたんですよ。」


 彼は少し照れたようにそっぽを向きながら言う。顔にこそ出ないものの彼にとって、とても恥ずかしいことなのだろう。しばらく彼は黙ってしまったが、また会話を寸断するわけにはいかない。せっかく彼がプラネタリウム並みの説明をしてくれたのだし、新年さっそく嬉しいことをしてくれたのだから。


「ありがとう、」
「いえ、礼には及びません、冬に星を見たのはもう1つほど理由がありましてね」
「それは?」


 私が問いかけると彼は何も言わずに立ち上がり、私の後ろに立った。すると後ろから手が回ってきて彼に抱きしめられていた。……どうしてこういうことは恥ずかしがらずに出来るだろう。こっちの方がよっぽど恥ずかしい私は顔が真っ赤になってしまった。


「冬は寒いので、こうして抱きしめる理由が出来るでしょう?」
「はいはい、そうですね」
「このまま日が出るのを待ちましょうか。」


 たまにはこんな日もいいだろう。彼と星を見ながら彼に説明してもらい、彼に抱きしめてもらう。このまま彼の腕の中で時をすごして彼と初日の出を見てそのあとは神社に行くんだ。きっと今年1年は彼でいっぱいだろう、去年よりもっともっと幸せな1年になるだろう。


「ねえ、ランス」
「なんですか」
「なんでもない」
「なんですかそれ」


 顔がよく見えないし、好きは明るくなるまで言わないでおこう。

Happy New year?

(きっと幸せな一年になるのだろう)

(20111227 加筆修正)
(旧サイトより移動)



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