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 早いもので年も開け、年始年末は特に忙しいマツバさんもやっと仕事が一段落して一日休めることになった。今まで出かけられなかった分今日こそどこかへ連れて行ってもらえるのかと期待していた。


「なんでどこも行かないのさ」
「たまにはいいじゃない、こういうのも」


外は寒いし、年末年始で人が沢山いるしね。そう彼は付け加えてこたつの中に肘のあたりまで腕を突っ込んだ。別にいつも行けないのだから今日くらい人が多くてもいいではないか。そう少しむくれる私をよそに彼はほっこりしている。


「むむ……」
「ん、どうしたんだい」
「ぶー」

かといって彼に嫌われたくはないので文句を言うことはできない、ので言葉にならない声を発した。でもやっぱりせっかくだからこの雰囲気を素直に楽しもうかな。



「マツバさんみかんー」
「はい」
「マツバさんおもちー」
「はいはい今やるから待っててね」


 しかしいざ楽しもうと思いこたつに入った足がなかなか動かず、これではマツバさんの休暇を私が潰してしまっているような気がした。はっ、これが正月太りの原因なのか……!私は意を決してこたつから足を出しマツバさんの立つ台所へ向かった。というか彼が私より女性らしいのは何故だろう。


「マツバさん手伝うー」
「どうしたの急に」
「動かないと太っちゃう」


するとマツバさんはそんなことか、と私の頭に手を置いた。


「別にななしが太ったところで嫌いになったりしないからさ、僕は君が甘えて来てくれるのが嬉しいんだよ」
「え、そんな……割と気にしてるのに、それなのに太っていいだなんて言っちゃだめだめ。それに」
「僕の休暇が家事で終わっちゃうって?良いんだよ別にそれでも、君と過ごすことが楽しいからね」


 マツバさんはそう言って向こうで待っててと私を畳みかけるものだから私は黙って元の位置へと戻った。いつも彼のペースだ。彼はいくら忙しいときでも私のことを優先して考えてくれるが決してそれが私のペースというわけではない、彼の考える“私を優先とした”彼のペースだ。本当に彼は意地悪だ。優しくって意地悪。


「ななし、お待たせ」
「ありがとう」
「ちょっとやめてよ、くすぐったい」
「えーいマツバさんくらえ!」

 彼の持ってきたお雑煮を食べながら私は彼にこたつの中でちょっかいを出す、二人してばたばたと足をあちらこちらで絡めるとその時だけは少しだけ私のペースに持ってこれたような優越感に浸る。お互い少し息が上がったところで足を休めると自然と口から笑みがこぼれた。


「ふふ」
「楽しそうだね」
「たまにはこんな年末年始もいいかなあ、そうだマツバさん隣行ってもいい?」
「だーめ」
「えっ」

 なんとなく私たちの間にはラブラブムードが漂っていたので、マツバさんに近寄ろうとかけた言葉に対する返答にショックを受けた。けれどそれも束の間で私の表情を見た彼はすぐに次の言葉を投げかけた。


「正面にいた方が顔も見えるし、どうせ足だって触れあう距離だろ?」
「えーいマツバのばかばか!」
「ななし」
「なんですか」
「好き」
「うわあ恥ずかしい照れる」


 どうして彼はこうも恥ずかしい言葉をなんともしない笑顔で淡々と発するのか、まあそんなところも好きなのだが。とりあえず照れて顔が火照った私は再び足をばたばたと動かしだした。
(20120103)



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