窓一枚で隔てられた向こう側はまるでバケツをひっくり返したようなどしゃ降りの大雨だった。

お気に入りのジャムを塗ったトーストをかじりながら見た今朝のニュースでは、清楚がウリのお天気お姉さんが洗濯日和の快晴だなんて愛想いい笑みを浮かべていたというのに。

ここまで外れてしまうと逆に清々しいじゃないか。
やはり午前中に洗濯物と夕飯の買い出しに出向いたのは正解だった。とはいえ、朝方からどうも湿気が強かったせいかせっかく干した洗濯物はくしゃくしゃだ。
こんな雨の日は撮り貯めしておいたドラマでも観て、家でおとなしくしているのが一番いい。

肝心のもう一人の同居人も、どうやらこの雨の中傘もささずに出掛けたきり数時間が経過している辺り、今日の仕事も順調なようだ。もて余した暇を何処にぶつけようか思考を巡らせていると、錆びた玄関の軋む音が同居人の帰宅を知らせた。

「おかえり…って、アンタその怪我どうしたの?」

「ただいま、なまえ。あー…これか。そんなに対したことねぇし大丈夫だろ」

いつもの掴みどころの無いふにゃりとした笑みを浮かべて、リビングに入ってきた同居人の姿に思わず言葉を失った。
雨に濡れてすっかり変色したヒーロースーツのところどころにうっすらと血が滲んでいて、顔のあちこちには明らかに家を出たときには無かった小さな切り傷や擦り傷が出来ており、その姿はとても痛々しかった。
それを私に悟らせないようにする為か、いつもの調子でへらりと微笑んでみせた同居人の顔色は出血のせいかあまりよくない。

「ちょっと、大丈夫な訳ないでしょ。ほら、手当てしなきゃいけないんだから早くソレ脱いで。」

「俺は平気だから気にすんなよ。なまえだって俺がそんなヤワじゃないって分かってんだろ?」

へらへらと何とも無いように笑い飛ばして自室に逃げようとする同居人を捕まえて、直ぐ様救急箱を用意する。
少し痛くても我慢してね、と声を掛けて消毒液を浸したコットンを傷口に当てるとイテッと少し大きな声が帰ってきた。

「今回は随分たくさん傷作ってきたじゃないの、珍しいわね」

「…嫌なんだよ、好きな女に怪我とか見せて心配されんの」

そのいい方だと多分今までも何度かこんなことがある度に私に悟らせないように隠していたんだろう。まあ今回はそれがたまたま雨のせいで露見してしまったわけだが。

「いいじゃない、たまには好きな男の心配くらいさせてくれたって」

「……恥ずかしい奴だな」

「たまには私だってアンタに頼って貰いたいの」

言い返す言葉が見当たらないせいかのか、それっきり同居人は口を閉ざして怪我の手当てを受けていた。
それでも傷だらけの頬がガラにもなく赤らんでいたもんだから、実に言葉よりも体は素直で実直だ。まったく、不器用で可愛い男だな。

なんて、悔しいから私も絶対に口に出してはやらないが。
傷だらけの頬に愛おしみを篭めて撫でてやり、私はそっと救急箱の蓋を閉じた。

俺は平気だから気にすんなよ

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