「運命の出会いって絶対こういうことを言うのよ」

昼下がりの柔らかな春の日射しがコンクリートの地面に伸びる。
暢気に過ぎてゆく昼休みの屋上に私の興奮しきったはしゃぎ声だけが虚しく音を残した。

先ほど購買にて購入したいちごミルクを啜りながら、愛だの恋だのと熱く語り始めた私に仗助は軽い溜め息を洩らした。

先ほどまではあんなに楽しそうな顔で弁当をつついていた仗助の顔には今となってはっきりと呆れの色が浮かんでいる。
一方の億康くんや康一くんに由花子は私の突拍子もない発言に意図が掴めない、といった様子だった。

「何だそりゃあ、いきなりどうしちまったんだよなまえ先輩ー?」

大きな白目がちの瞳をぱちくりさせて億康くんが案の定真っ先に食いついてきた。敢えて口には出さない康一くんと由花子も興味ありげな視線をこちらに送ってくるあたり、億康くんと同じ疑問があるようだ。

「あー、大したした話じゃねえよ。つーか、普段から男遊びしてるなまえに純愛とかあるか?」

「ちょっと、それってあんまりな言い方じゃない。それに幼馴染みだからって一応年上なんだから先輩くらいつけなさいよ、仗助くん?」

真剣な乙女の相談を軽く否定で一蹴した仗助にじとりと睨みを効かせてやると、おどけたように「すいませんねぇ、なまえ先輩」と反省の意が感じられない言葉が返ってきた。

イマイチ煮え切らない感じはするが、私とてこのまま仗助とくだらない口論を繰り広げるつもりはない。
一方の仗助もその気らしく、残り少ない弁当を再びつつき始めた為、傍観者になっていた三人に再び視線を戻した。

「実はね、私にもついに春が来ちゃったんだよね」

「あら、なまえの脳内は常に春のお花畑じゃない」

「なっ…仗助だけでなく、由花子まで失礼な!」

「ちょ、ちょっと由花子さん……すみません先輩!」

小さな桃色の唇に乗せて、無遠慮な悪辣すぎる言葉を投下してくる由花子に康一くんはおどおどした様子でぺこぺこと頭を下げている。

仮にも一つ年上だというのに、この酷い扱いはやはり年上の威厳がないということなんだろうか。
一人虚しい思いを抱えつつも、このままだとまた悪辣な野次を飛ばされて貴重な昼休みが終わってしまう。

再度気を取り直して、私は彼――カキョウインさんとの衝撃的な出会いについて一通り話した。

*

「へぇー、そんなところから生まれる恋なんてあるんだな。それでなまえ先輩はソイツを好きになったってワケか?」

「そうそう!変な奴に絡まれて危ないところを助けてくれて、まさに一目惚れみたいな」

あの夢のような一夜のことを再び思い出しては、延々と夢心地に浸っていると、先程まで黙って弁当をつついていた仗助が空っぽの弁当箱から漸く顔を上げた。

「じゃあ男遊びはもちろん止めるんだなぁ、なまえ?」

「え、何で?止めないに決まってるじゃん」

カキョウインさんは大好きだけど、それとこれとは違う。
そう言葉を繋げると仗助は、ほら見たことかとまた溜め息をひとつ洩らし、億康くんは「いや、おかしいだろ」とすかさずツッコミを繰り出し、康一くんはひたすら苦笑いを浮かべ、由花子はそ知らぬ顔で菓子パンを頬張っている。

「だってめちゃくちゃ稼げるし?あっ、でも当面カキョウインさん以外は受け付けないから手か口でしか奉仕しないよ」

だって、良いじゃん、それだけで満たされるし。
放課後はまたあの賑わいを見せる駅前でカキョウインさんを待ってみよう。最悪の場合、適当なオジサンでも引っ掛ければいいだろう。
そんなことを考えながら、残り少ないいちごミルクを一気に啜った。




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