物を食べるという欲求は実に官能的で淫らなことだと思う。

調理されているとはいえ、生物の死体を口に運んで舌や歯を巧みに使って散々弄んだ後には喉を、腸を、胃を通ってもなお食物は巡り巡って血肉となるわけだが、これ程の卑猥な行為はもちろんセックスなんかの比になるはずもなく飛び抜けて厭らしく、生産性のある行為であると言える。

何故なら尊いその生物の命を奪って自分がその分だけのうのうと生き長らえるだけで収まるところを知らず、その命を自分のものとして遺伝子ごと征服してしまうだなんて実に残虐で素晴らしいバイオリズムな精神ではないだろうか。

「そんなに美味いのか、ソレは」

華奢な白い小さな掌に握り込まれたフォークが皿に擦れる音だけが広い部屋に虚しく響いた。
先ほどまでは白い皿の上の料理とせわしなく動く銀色のフォークとナイフだけに注がれていたなまえの愛くるしい丸い瞳がようやくこちらに注がれる。

「まあ少なくても、アンタが食べてるものよりは綺麗じゃないの」

「その言い方だとこのDIOが好んで食すものを嫌う言い方だな?」

「だってそうでしょ。生き血にせよ、結局は自分以外の生物を体に入れることには違いないんだから。考えてもみて、自分以外の生物の細胞が自身の体に入るなんて立派な汚染じゃない」

吐き捨てるように呟いたなまえは白い皿に乗せられた物体をフォークで捕らえた。

彼女の小さな桃色の唇にはフォークに突き刺さった極彩色の物体、もっと特定した言い方をするなら、真っ赤な薔薇の花弁が運ばれていく。

思えばいつからだっただろうか、なまえの異常すぎる食への美意識の高さと執着にはもはや病的なところがあった。
もはや、そんな偏食が一日に三回も定期的に繰り返されるのだから生憎すっかりとこの身に馴染んでしまっているわけだが、やはり改めて今一度考え直してみても食事に三食全て極彩色の花が出てくる食卓はそうないだろう。

「・・・、そうは言ってもお前は少し限度ってやつを弁えたほうが良かろう。これ以上このような偏食を続けていたらその内栄養失調でのたれ死ぬぞ」

「死体から薔薇の香りがするなんて素敵じゃない、それにアンタは薔薇が好きなんだから丁度いいでしょ」

花の蜜か涎か分からない液体がなまえの唇の上で妖艶に光る。
お世辞にも健康的とは言えない白すぎる肌と筋肉の全く無い四肢と相まってか、その姿は人形のようだった。

その身は何よりも美しく、堪らなく余裕で悪態をつく憎たらしいその姿勢を手折ってやりたくなる。フレアスカートから覗く、妖艶さを放つ彼女の肢体はそれでも一般的な成人女性と比べてやはり細すぎたけれど。

最早なまえの体はギリギリまで磨り減らされた地点まで目に見えるほど持っていかれている。そう、この私が言えたことではないが、これはれっきとした『異常』だろう。

それでも、触れたら壊れてしまいそうなほど細いあの手足が、帝王であるこのDIOに屈することなく向かってくるあの高飛車な態度が、堪らなく本能を駆り立てる。

もし、あの白い脚に思いきり歯を立ててみたら彼女はどんな反応をするのだろう。虫けらをみるような眼差しで多くを語らず、ただただ罵るのか、はたまた処女のように頬をピンクに染め、娼婦のように喘ぐのか。

「なあなまえよ、お前は人を食した経験はあるか?」

「それに関してはアンタの方が数倍詳しいんじゃないかしら、私が答えられるとすれば薔薇の甘ったるい蜜の味だけだわ」

「それなら質問を変えようじゃないか、人間は果たして美味だと思うか」

「さぁね、そんなに気になるなら女の一人でも落として誘ってみたら?」

ベトベトの口元を乱暴に拭って、空っぽになった白い皿に映る自身の顔を見つめたなまえは端正な顔を歪めた。

皿に映った丸い瞳がこちらを睨んでいるように見えて、堪らずぞくりとした背徳感に支配される。
全く変わった退屈させない女だ、上等だと言わんばかりに自身の口元が厭らしく弧を描いた。

「憎たらしい女め、いずれ本当に骨ひとつ残さず食ってしまうぞ」

「・・・おあいにく様、下品な生物の細胞になるのは死ぬほど嫌なの」

私の頬になまえの吐いた不躾な生々しい唾が掛かる。
見せ付けるようにぺろりと舐めあげると気持ち悪い、と返ってきたので極上の笑顔を向けてやった。
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