▽学パロ

底冷えしたアスファルトが履き慣れたローファーに擦れて、コツコツと規則正しい音を作り出していく。
ぼんやりとした柔らかい夕日によって映し出された色濃い影が一人寂しく帰路を辿る自分を嘲笑うように長く伸びている。

そんなやりきれないような虚無感に見舞われつつも淡々と足を踏み出すことを止めるわけでもなく、ズンズンと一人寂しく足を進める。

いつもなら煩わしいほどに賑やかに過ぎていくこの時間を上手く潰す方法を見つけることも困難な程に私の生活に退屈の二文字は無縁らしい。

隣のぽっかりと空いたスペースに抑えていたはずの溜め息が漏れてしまった。

胸に渦巻く寂しさを紛らわすように、少し早歩きになりつつ歩いていると、ガードレールの外を花が綻ぶような満面の笑みで駆け抜けていく数人の小学生が視界に入り、自然とフラッシュバックするかの如く昔の記憶がぼんやりと思い出される。

性別の壁や周りの目などを一切気にせず馬鹿騒ぎしていたあの日々が今はひたすら遠い。
今となっては二人で肩を並べることの方がめっきり減ってしまった訳で。

思わず遠くなっていく見ず知らずの小さい背中に幼い頃の自分達を重ね合わせてしまうのは、私達はそれなりに大人になったということなんだろう。

同時に思った以上にアイツに頼っていた節が自分にはあったようで、この年になっても彼氏の一つも未だに出来ない自分に少し嫌気が差す。
そんな独り身の感傷にすら浸る余裕もなく、唐突にふわりと掌を包み込んでくる温もりはやはりズルい。

「・・・ちょっと、いきなり何なのサイタマ」

「おい、何怒ってんだよお前。今日は一緒に帰る約束だっただろ」

少し痛いくらいにぎゅっと握ってくる骨ばった大きな掌が少し汗ばんでいて、どうやら私を急いで追ってきてくれたらしい。
私より頭一つ分位上にある顔をちらりと横目で盗み見てやると、日に日に男らしくなっていく凛々しい顔立ちに自然と頬が熱くなる。

別に私だっていつまでももう子供じゃないのに、何処までも私を心配してくるお節介焼きなところは今も全く変わっていない。
ごめんねと小さく呟くと握ってくる手の力が少しだけ緩くなる。ずっと強く握っててくれてもいいのに、なんて。

「でもアンタも飽きないね、彼女でもない私に構う必要なんか無いのに」

「別に俺はそんなこと思っちゃいねえよ。なまえとオレが居たくて一緒に居るだけだし」

「昔からサイタマはサラッと恥ずかしいこというよね。その台詞何か告白みたい」

「バカヤロー、別にそういう意味で言った訳じゃねえよ」

少しからかうような口調で微笑みかけると、強がった口調に少しの動揺が見てとれる。少し前を歩くサイタマの耳は柄にもなく赤くて思わず笑みが溢れた。

さすがに少しからかい過ぎてしまったようだ。罪悪感を感じつつ、耳まで真っ赤な顔を覗き込むと頬に突然鈍い痛みが走った。

「からかったお返しな、ざまぁみろ」

つねられた頬が鈍い痛みによって熱を持つ。まんまとしおらしい態度に騙された私にサイタマは不敵な笑みで私の頬を弄んでいる。

この男のこんなに無邪気な笑みが見れるのは、きっと幼馴染みの私くらいで、でも甘い言葉を囁く姿など想像も出来ない。
なんと非生産で不毛な関係性だろう。

それでも、頬に残ったゆるい痛みと繋がれた暖かい掌に胸がたまらなく燻られる。

「このハゲ!仮にも女子にいきなり何すんのよ」

「まだハゲてねーよ、アホ!大体先に引っ掛けてきたのはなまえだろ」

「・・・そりゃそうだけど。でも痛いモンは痛いの」

痛いところを突かれて反撃の言葉が浮かばない。ゆるくつねられた頬を撫でていると、大きな溜め息が横に並ぶサイタマの口から洩れた。

「しょうがねえな。俺が痛くなくなるおまじないかけてやるよ」

「ちょっと、子供じゃないんだから」

真面目な顔でがたいのいい男がおまじないだなんて言うもんだからおかしくなってしまう。まだ突っ掛かろうとすた私の魂胆はお見通しらしい。

ちょっと黙ってろ、と低く呟いて私の口を覆ったサイタマの瞳がいつになく真剣で喉からでた笑い声も思わず引っ込んだ。

少し色付いた頬をゆるりと撫でて、じりじりと端正な顔が近付いてくる。
気付けば鼻先に柔らかい息がかかるほどまで、密着したそれが軽いタッチで熱を持った頬に触れた。

「痛いの痛いのとんでいけ」

耳元でぼそりと呟いた心地いいテノールの声と頬に残る柔らかい感触に、また頬に熱が籠った。

何も言えずに立ちすくんでいる私の手を引いて、サイタマはまた数歩前を歩き始めた。
バクバクと破裂しそうなくらい高鳴る胸が苦しい。
何でそうやってこの男はいつも私の心をを奪っていくんだろう。

「・・・馬鹿じゃないの、ハゲ」

「お前に言われたくねぇよ、アホなまえ」

何だか悔しくて、おかえしに頭一つ分高い位置にある無防備な耳を思いきりつねって、爪先立ちで唇を寄せてやる。

今度は唇にしてよ、と呟いたら林檎にも負けない位に真っ赤な顔で、上等だと少し震えた声が帰ってきた。


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