ふと気付けば視線で追う猫背がちの真っ黒い背中。
名前の通り、ひっそりと佇む影みたいな彼を気に掛けるようになったのは丁度一週間ほど前に行われた席替えでたまたま彼の隣を引き当てたことからだった。

だが、こう改まって考えてみると彼はとりわけ飛び抜けた特徴があるわけではなく、当然目を引く容姿でもない。
強いていうなら彼の後ろを常について回る、超能力うんたらの根も葉もない噂くらいだろう。

それさえ除けば、彼は至って平凡な中学生な訳だが、どういう訳か私はそんな彼――影山くんが気になって仕方ない。
今となっては、興味の理由さえ曖昧なままこっそり影山くんを観察するのが日課になりつつあり、気付けば頭の中は影山くんのことでいっぱいだ。

「おーい、影山くん。そろそろ起きてくれないと教室閉めらんないよ」

「ん…あれ、なまえさん?どうしてこんな時間まで残ってるの」

濃紺の学ランに身を包んだ丸い背中を出来るだけ優しく揺すってやると、ようやく目を覚ましたらしい影山くんがのっそりと起き上がる。

まだ眠気が取れていないのかゆるゆると目を擦り、ぼんやりとしている影山くんに日誌をちらつかせればその旨を理解したらしくそっか、とひとつ呟いた。

「でもなまえさんが日直の仕事をしてるってことは、僕も日直だったんだよね?」

「まあそうなんだけど、そこまで仕事なかったし大丈夫だよ」

長い前髪越しに情けなく目尻を下げた影山くんと目が合う。
どうやらそれなりに罪悪感を感じているらしく、その姿は飼い主に怒られた後の小型犬のようにも見える。

この一週間、隣で影山くんを観察してきたがこんな表情を見るのは初めてで、こんな顔も出来るんだとぼんやり感じた。

「そんなに気にしなくていいってば。影山くんて律儀なんだね」

「そんなことないよ。やって貰ったんだから当然だって」

うーん、実際ににこうして話してみて分かったけど、凄くいい子だ。
優しく微笑み返してやれば、安心したような表情を向けられる。

思わず頭を撫でたい衝動に駆られながら悶々としていると、影山くんの形のいい唇から小さな欠伸がひとつ洩れた。

よく見れば大きな真ん丸の瞳の下に隈もうっすら出来ており、今までの影山くんの様子と合わせて考えれば確かに合点がいく。

「ねぇ影山くん、最近凄く疲れてるでしょ」

「…もしかしてあからさまに顔に出てる?」

「そりゃあ、あんなにぐっすり寝てればすぐ分かるって」

そうだよね、と何とも言えない複雑な表情で相槌を打った影山くんは何か思い悩むように私から視線を反らして窓の外を映した。
影山くんの為に何か自分が力になれることはないだろうか。

朱色の夕日に照らされた影山くんの少しやつれた横顔。
それを見て、はっと一つの閃きが過ぎる。
何をするでもない影山くんの手首を思わずぱっと掴んで、閃きの元であるブツを白い掌に乗せた。

「これ、あげるよ。」

「えっ…これって、よっちゃんイカだよね?」

「だって疲れた時は酸っぱいものでしょ…あれ、もしかして嫌いだった?」

「い、いや、嫌いじゃないけど…普通甘いものじゃないかな」

ぽかんとした様子の影山くんにいいから、とよっちゃんイカを半ば強引に押し付ける。

自分では良かれと思い、取った行動だったがふと思えば花の女子中学生がよっちゃんイカとは随分じじくさい気もする。
こういう日に限っていつも常備しているチロルチョコを切らしているのが悪い。そうだ、私に罪はない。全てチロルが悪いのだ。

今更になってどうしようもない恥ずかしさが込み上げて、頭が真っ白になってしまった。
じゃあそういうことだから、と恥ずかしさの余り些か投げやりになりながら、影山くんの顔もロクに見ずに教室内を飛び出した。

明日どんな顔で影山くんと顔を合わせたらいいか分からない。
押し付けがましいことをした上に渡したものはよっちゃんイカ。
終わった…そう確信した時、後ろから息を切らした影山くんに呼び止められた。

「ま、待ってなまえさん!あの、よっちゃんありがとう…もし良かったらコレお返しに」

手首を優しく掴まれて、ちょこんと乗せられたのは可愛らしい包装紙に包まれたイチゴミルク。
これではどっちが女子だか分かったもんじゃない。ありがとう、と微笑めば控えめな笑みが返ってきた。

何だ、影山くんはこんな顔も出来るのか。
ぼんやりとそんなことを考えながら、改めて影山くんのことをもっと知りたくなった。
今はそうやって私を突き動かす理由に名前はないけれど、生憎まだまだ時間はある。

「ねぇ影山くん、私と友達になってください。」


*


オリ様に捧げます!
明るめのお話(ギャグかほのぼの)でモブくんと同級生主ということでしたので、恋になる一歩のモブくんと同級生主のほのぼのしたお話を目指しました。
あまり普段こういった可愛らしいお話を書き慣れていないので、ご期待に沿えるようなお話になっているか不安なところではありますが、受け取って頂けたら幸いです。

それではリクエストありがとうございます!
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