有象無象の人混みをかき分けて歩いていると目に入った巨大な広告の好青年達が、こちらに微笑みを向けていた。有名化粧品の宣伝を瀬名泉がやるのは頷けるが、隣に並んだ月永レオには違和感があった。泉が頭を抱えて撮影に挑んだのを想像すると苦笑した。つい立ち止まっていた私は、人にぶつかりそうになり、手にした荷物を抱え直し、止まった脚を目的地に向けて動かした。


気怠い身体で寝返りを打つと、隣には日中に見た広告と同じ顔がある。元来持ち合わせた容姿とスキンケアを怠らない綺麗な肌が、非現実的だ。閉じていた彼の瞳がパチリと開いた。
「なーにさっきから俺の事見てるわけ?」
「えー、いや、なんか信じらんないなーと」
「はぁ?」
「カリスマモデルの瀬名泉様と同衾しているのが不思議って話」
「意味わかんない」
伸びてきた彼の細長くて男らしいさもある指が、私を頬を撫でた。ゾッとする程、美しい微笑みを携えて。
「俺は、いつかはこうなると思っていたよ」
「こうなるって」
言いかけたものは、背中にのしかかった体重で消えた。
「お前ら二人でずるいぞ!俺も混ぜろ!」
「はぁ?今日は散々楽しんだでしょ?れおくん」
「嫉妬か?見苦しいぞセナ!」
「殺したくなってきた」
「二人とも私の頭の上で大声出さないでよ、うるさい」
私が怒り口調でハッキリ言うと、二人は大人しくなる。従順すぎて、おかしいくらいだ。
この二人が喧嘩を始めると、誰かがとめない限りは続くし、何より単純にうるさい。
気障ったらしい泉は、私の髪を取って口付けをした。
「機嫌直して、お姫様」
「これからまた楽しいことをしような、名前」
何を、なんて聞くのは野暮だ。三人全員が裸のままで、大きなベッドで戯れている時点でお察し。私はこのまま彼らに食べられるのだ。
手早く愛撫が始まり、私を知り尽くした彼らによって触れられた身体は熱くなっていく。
いつからこの関係になったかなどと考えることはやめた。始まりを思い出しても、終わることはないのだから。逃げ出すことは許されない。二人を選ぶことをしなかった残虐な私が得た結果がこれだ。
果たして、買い足したコンドームで足りるのだろうか。容赦なく穿つ彼らはこちらから要求しないと決して避妊などしない。用意するのはいつだって私の役目。
不意に受けた刺激はヒリヒリと痛みが増して、先程撫でられていた頬を叩かれたことに気がついた。
「他のことなんて考えないで、俺を見てよ」
私に跨る泉がビンタしたらしい。売り物の自分が傷つくのは許さないが、目の前の女を傷つけることはいとわない。痛いのは私なのに、泉が傷ついた顔をしたことは、見て見ぬふりをした。
叩かれた頬を舐めて、口付けをしたのはレオ。
「今のは名前が悪いと思うぞ。まあそんな名前も好きだけどな!あははっ」
語尾は笑っているが、目は笑ってなどいなかった。
暗闇の中で溶けたシーツの擦れる音の耳障りの悪さ。
彼らの手が、何かを確かめるように私の肌を滑っていく。
一つ一つに感じている私を見ると、二人は満足そうに微笑んだ。
「全部、全部名前が悪い」
「一生、許さないからね」
だったら、私を今すぐ罰して。

20191105



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