君と私の物語 | ナノ






デイダラと出逢い、不思議な同居生活が開始してから数日が経った。とにかくその間も今も、すごく充実している。数日の間に、まずデイダラの服や他に日常生活で必要な物を買え揃えた。他には、念のためこの近辺を案内した(駅で電車を見た時のデイダラのはしゃぎようはかわいかったなあ)それから一人暮らしの為か、今までは一人で全てをこなしていたけど、デイダラが手伝ってくれるようになった。家事の手伝いだなんて人生で初めてらしくとても不馴れているけど。でも、それでも一人よりも二人だと楽しいし手伝ってくれる、それだけで有難い。それからは普段通り学校があって課題に追われたり、バイトをしたり。何も予定がない時は真っ直ぐ家路へと急いだ。理由はデイダラの話を沢山聞きたかったし、もっとデイダラ自身を知りたいから。この数日間で知れたことは沢山あるけど、それでもまだまだ私はデイダラのことを知らないに等しいと思った。
そんな充実な日々が流れていくある日、デイダラがふと私のスケッチブックを見つけ、それを開いて眺めていた。ペラペラと捲っていき今視線の先は、描き途中な未完成の課題の絵。


「これ、優月が全部描いたのか?」
「うん、それ大学に提出する課題なんだ」
「…大学ってなんだ?」
「学校と同じ、かな。私は美術専攻の大学に行ってるの」
「じゃあ、優月も芸術が好きなのか?」
「大好きだよ」
「オイラもだ、うん!」
「デイダラも絵描くの?」
「いや、オイラは粘土」
「じゃあ、器用なんだね」
「まぁな」

それから、デイダラの芸術論がノンストップで語り出された。今はポップよりもスーパーフラットだとか、儚く散っていく一瞬の美こそ芸術だとか(どうもデイダラの忍術?は粘土が動いたりして、最後には爆発するらしい)その話題はかなり長かったけれど、聞いてて全く苦じゃなかった。何だか、それを話しているデイダラは瞳を輝かせて活き活きしているから。きっと本当に大好きなんだなって、すごく伝わってきた。

「デイダラが作ったもの見てみたいな」
「本当か?」
「もちろん」

するとデイダラは早速行動に移し、床に置いてある二つのポーチ(デイダラが腰に身に付けていたものだ)を取りだし、チャックを開けた。その中から取り出したのは白い粘土。デイダラは左手でそれを少し取るとギュッギュッと鳴らしながら捏ね始めた。
それを終始傍観していると、私に握り締められた左手を差し出してきた。そして掌が開けられると、そこには掌に収まるサイズの小さな鳥の造形をした粘土が置かれている。それは粗密が区別できるくらい、綺麗に形成されていた。まるでマジックをしたみたい。幾度か瞬きを繰り返してから、感嘆の言葉が自然に出た。

「す…、すごい」

「ん?」

「デイダラ、すごいよ!」
「そうだろ」
「これ、かわいいね」
「記念にあげる、うん」
「ありがとう。わ、私も作ってみたいな」
「そうだな……作ってみてもいいぞ」
「いいの?」
「オイラの芸術分かってくれた奴、久々だしな」

機嫌良さそうに揚々と喋るデイダラ。あまりにも分かりやすくって、クスリと笑顔になってしまった。これで、またデイダラのことを一つ知れた。自分の芸術論を突き通してて大好きなんだってこと。やっぱり自分の好きなことをやれるのって幸せなんだよね。時間を忘れちゃうくらい没頭しちゃって。そんなことをつくづく噛み締めながら、デイダラから粘土を少し貰って作り始める。今まで絵ばっかり描いていたから粘土なんて小学生以来かもしれない(紙粘土で貯金箱作ったなあ)とりあえず、作ってみよう。よしっ、と気合いを入れて私は熱心にそれに注ぎ込んだ。が、しかし…



「………」
「…………」

「…不器用」

静まり返る部屋にデイダラの一言が響いた(気がした)確かに!、と共感できる程、見た目なんなのか分からない形に型どっている完成した粘土(実はデイダラのを真似て作ってみた鳥なんだけど、え、これなんだろう?)やっぱり私には絵以外できなさすぎるな、と改めて思い知らされた。それでも未だに捏ねたり形成づけたりさっきよりも良くしようとする私に、痺れを切らしたのかここはこうだ、とデイダラが口にした直接に手が伸びてきた。
それは、ほんの一瞬の出来事。不意にデイダラの手と自分の手が触れてしまった。まるで一時停止をしたかのように、時が止まったよう。あ、と私が反射的に声を出すと、ハッと気付いてデイダラは素早く手を離した。


「わ、悪りィ」
「う、うん。大丈夫、平気っ」

ギクシャクに会話を交わし、そのままお互い無言になってしまう。ちらりとデイダラの方へと眇めると、窓から射し込むオレンジ色や黄色な夕陽。それをバックにしていて伏し目がちなデイダラに何故かドキリ、と強く鼓動した。





一瞬。だけど彼の手の温もりが、未だに鮮明に覚えている。