君と私の物語 | ナノ





不思議な彼、デイダラ君が倒れているのを見つけたのは昨夜のこと。彼が目覚めたのは日にちが変わって陽が沈み始めた頃で、私はそれまで課題の作品に取り組み休憩をとろうと、オレンジジュースを冷蔵庫から取り出したところだった。
それから有り得ないことだらけの事実が発覚(正直、拳の口や左胸の縫い目の方があまりにも衝撃的で怖かった)どうやらそれは信じがたいけれど真実らしく、私は難なくそれを咀嚼してみた。デイダラ君をどうしようか迷ったけれど、結局行く当てがない彼を見捨てることなどできるはずがなかった。それで手を差し伸ばして、誘ってみたはいいものデイダラ君は私を頗る警戒しながら怪訝そうな表情を浮かべていた。初対面だから当たり前だけど。それでも、デイダラ君は了承してくれた(残念なことに、握手はできなかったけど)

それから、数十分が経過していた。それまでに解ったことはデイダラ君は私と同い年、その程度。それから、デイダラ君は上半身裸だったので流石に夜は冷え込むだろうと懸念し、間違えて大きいサイズを買ってしまった黒いトレーナーをクローゼットから探しあてて貸した。その後、話はすぐに途切れ終始無言が続き、そんな現状を破るようにテレビのチャンネルを持って素早く電源を入れた。煌々と映し出されたのは、ニュースで車がトラックと正面衝突したのか滅茶苦茶に潰れていて警察官が何人か居る映像が流れていて、アナウンサーがその事故の過程を丁寧に説明している。デイダラ君はそれを物珍しそうに、それに釘付けになっていた。きっと総てが違い、改めて此処は異世界だと悟ったのだろう。


「お前が言ってた通り、やっぱ此処は違う世界なんだな」
「…デイダラ君」
「こんなもの見たことねぇ」
「デイダラ君が住んでいたとこはどういうどこだったの?」
「オイラの住んでいた里のことか?」
「そう」

やはり忍がいる世界に、彼が住んでいた処に興味があったのでそう質問すればデイダラ君はそうだな、と口にしてその後の言葉を濁らせる。もしかして、タブーなことだったのかもしれない。そう咎めていると、デイダラ君は薄く苦笑した。

「オイラが住んでたとこは、…その抜けたんだ、うん」
「…えっと、その抜けたってなに?」

「里を捨てたってことだ」
「捨てた?」

デイダラ君は額に宛てているものを指差した。そこには銀色のプレートが布地にくっついていて、四角と重なる山の様なマークが描かれていて、その上から一線を引いていた。彼曰く、マークは何処の里の忍かを示していて一線を引いているのは謀叛の印、そしてある組織に所属している証拠らしい。つまり、理由は全く謎だけどデイダラ君は里に叛いたみたいだ。その所為もあってか、引っ越すとか移住すると云う単語よりも捨てた、にはとても重みがあった。それから、デイダラ君は自身の過去を教えてくれた。
故郷である里を抜けた理由、その後の自由気儘な暮らしの中に訪ずれた者達。そして、所属したのはS級犯罪者の集まりの組織“暁”。また里を抜けたら、どんなに危険か。それはあまりにスケールが大きく、まるで映画や本の中での話みたいで瞬きを繰り返すことしかできなかった。それに、S級犯罪者ってかなりやばい人なのでは?しかも、スカウトされたのだから忍としてかなりの実力者なのだろう。グルグルと回転し続ける脳は、次から次へと考えを止めない。

「大まかに全て話したが、こっちで誰かを殺したり大騒ぎするつもりは毛頭ねぇから安心しろ」
「…………」

「…今更オレが怖くなったかい?」
「……違うの」
「うん?」

熟考してみれば、これはきっと彼なりの覚悟して話してくれたことなのだろう。誰だって、こんな話を聞けば酷く厭うはず。デイダラ君の世界では彼はどんな風に捉えられていたのかは解らない。けれど私達側の人々は普通じゃない、所謂異端者や変わり者を白い目で見て貶し誹謗をするのだ。それなのに、デイダラ君は彼自身のことを隠さず教えてくれた。確かに恐れてしまうがそれでも私は、しっかり受けとめる義務がある。それに話を聞く限り、きっとデイダラ君は相掏りと長く居て、心を許す人や仲睦まじい友人が少なかったのかもしれない。それが伝わってきてか何故か私が寂しかった、とても。


「私、デイダラ君のこともっともっと知りたくなった」
「お前、本当不思議な奴だな。普通怖がるとこだろ?」
「お前じゃなくって優月」

そう軽く口にすれば…優月、と視線を泳がしながら小さく呟くデイダラ君。それがなんだか嬉しくて、自然に笑みを溢していた。それからデイダラ君に、デイダラ君は止めろと言われた。要するに、呼び捨てでいいと云うことなのだろう。呼び捨て同士の仲になってデイダラ君のことを知れて、ほんの僅かかもしれないけれどデイダラ君との距離が縮まった気がした。


君と私の蟠りは少しずつ少しずつ、解かれてきた。