閉じている目蓋から光が射し込む。意識が徐々に戻り、重ったるい目蓋を開けると、視界には真っ白な天井が映し出された。此処が死後の世界とやらなのだろうか?しかし不思議なことに意識も五感も正常に働いていて、どんなに熟考しても此処は死後の世界なんかじゃないと悟る。現に今まで寝台で寝ていたらしいのだから。じゃあ、何でオイラは生きてるんだ。あの時確かに、心臓部に起爆粘土を咀嚼して身体の内から微塵に昇華したはずだ。生きているなんて、まず有り得ねぇ。悶々と按じてる時、脇から何処かで聞き覚えのある声が耳に入ってきた。 「目、覚めたんだね」 訝しそうに双眸のみを声する方へと移動すれば、見たこともない女が立っていた。片手にはオレンジと綴られている紙パックを持っている。周りを見渡すとこの部屋は、シンプルな内装だ。オイラは鉛の様に重い上半身を起こして、女を見据える。女からチャクラを全く感じない為、どうやら忍ではなさそうだ。とにかく、何でオイラがこの様な状態なっているのかはこいつが全て知っているはずだ。 「あんた誰だ、うん?」 「私は優月。君は?」 「………デイダラ」 S級犯罪者がこんな簡単に名前を示していいものか半ば躊躇したが、ただの女に言ったとこでどうってことはないだろう。万が一の時は、殺せばいい話だ。優月と名乗った女はへらりと微笑んでから、不思議と口にした。いや、オイラから見ればお前の方が不思議なんだけどな。大体、その服装は何なんだろうか。何処の隠れ里でも、そんな格好してる女は見たことがねぇ。 「…此処は何処だ?」 「私の家」 「いや、そうじゃなくって何処の里だ?」 「………さ、と?」 質問をすると、優月は神妙な顔付きをする。何で何処の里なのか質問したらそんな表情をするんだ。まさか、此処は岩隠れの里でオイラが岩の出身って知ってるからか?それにしても、あまりに不可解だ。里と云う単語に慣れてないかのようで、覚束無い様子だ。 「里って言うか…ここは日本だよ」 「にほん?」 「あ、もしかして里って市町村のことだった?」 そう仄めかしてから、優月は紙パックを机に置いてある透明なコップに注ぎ始めた。鮮やかなオレンジ色にコップが八分目程まで染まると、はい、どうぞと渡された。渋りながらも、それを受け取って話を戻す。早急にこんな所から抜け出し、生きている限り暁の元に戻らなければいけないのだから(そういや、トビは生きてんのか?) 「さっきから言っている意味分かんねぇんだけど、うん」 「…じゃあ、まず先に私の質問に答えて」 「…なんだよ」 「私は一昨日君に…、デイダラ君を夢で見たの。それで昨日の夜中、外で倒れているのを見つけた」 不思議だよね。と、そう呟き、苦笑を顔に刻む。その時、すっかり忘却していたであろう記憶がはっきりと蘇ってきた。それは、自ら昇華し意識を手放す前。幻聴にしては、あまりにも鮮明に聞こえた柔らかい質の音声。つまり、紛れもなく目の前にいる人物と同じ声なのだ。あの時、居たのはオイラとうちはのガキとトビだけ。あの大爆発した瞬間にそんなことできっこねぇ。一般人なら尚更だし、多分忍でも難しいはずだ。でも、もしこれが本当ならば更に話が蟠る一方で、捌ける兆しは全く無く疑問は深まるばかり。一体、どういうことなんだ? 「まさか、オイラが死ぬときに…価値がどうのって言った張本人なのかよ?」 「…やっぱりあれは夢じゃないんだね」 辻褄はまだ合わないが、やはり事実のようだ。有り得ないことばかりが身の回りに起きていて、当然これもまた夢に違いねぇ。でも、夢にしてはあまりにリアルすぎる。つまり、これは現実で、無理矢理にでも身に起きた状況を鵜呑みにするしかなさそうだ。 「つまり、オイラがあんたの夢に出てきた。それが、何か意味あるってのか?」 「夢を見て思ったの。私が考えてる範囲なんだけど、君はこの世界の人じゃないんじゃない?」 「……は?」 「だって会話が尋常じゃなかったし不思議な格好してるし、自爆だなんて簡単にできるものじゃない」 「術を使えば可能だろ、うん。ま、オイラの術は他人にはそう簡単にはできねぇけどな」 「術?」 「忍があちこちにいるんだから、そんくらい知っとけよ」 「……忍、忍者なんていないよ」 「は?」 「忍者なんてここにはいない。それに…、」 デイダラ君の掌のと左胸と腕の縫い目、と間を空けてから綴った。あぁ、オイラが意識失っている間に見たのか。その後、優月はテレビで一度見たらしいが、この世界では腕が切断したら再度くっ付ける技術はあるが高度な技術が必要。つまり、そんな簡単にくっ付けることはできないし成功してもちゃんと動くのかは解らない(義手とやらならあるらしい)それにそんな掌見たこともないと否めないように自身の考えを肯定する。順々に出てくる不可解すぎる話に怪訝そうにする。それでも、確かにこいつの考えが正確だと云うのも一理あるのは事実。何故かってあまりにも今居るとこが今までのとことは違いすぎるからだ。オイラは自身の掌と乱雑に縫われている腕を一瞥すると、そいつは微笑みながらいきなり強ちに手を差し伸べてきた。 「オイラが怖くないのかい、うん?」 「びっくりしたけど、もう平気」 「何だよ、そりゃあ」 「君が良ければ、此処で暮らさない?」 唐突に言い退ける優月に、甚だしく瞠若する。偽言かもしれないと再度疑阻するが、どうやら優月の瞳は揺らぐことは無く、有り得ないが真実なのだろうと察知する(認めるしかないとも捉えられる)そして何故こうなったかは勿論咎めたいが取り敢えず今残された道は、オイラはもう諾うしかないと推し量った。 二人は異世界同士で初対面、そんな赤の他人の様な位置から始まった。 |