ゴロゴロと雷が遠くの方で轟く。それに負けないくらい雨が地面を強く叩き、風が唸り、壁にぶつかる。その度に雨戸が揺れて、鈍く軋んだ音が部屋にまで響く。さっきからテレビでは、綺麗に着飾った女の天気予報士が今の大荒れた天気の原因についてこれでもかって言うくらい事細かく説明している。自然と耳から届くその女の人の声を聞きながら、マグカップに入れたティーバッグにお湯を注げば、じわじわと紅茶色に染まり、湯気と共にダージリンの匂いが鼻を掠めていった。 「砂糖とミルク入れる?」 「入れる、うん」 「…はい、紅茶」 「さんきゅ」 小さなこの一室が、何故か雨戸とカーテンに閉められることによって更にこぢんまりしているように感じた。そんな中で、私とデイダラは何をするわけでもなくひたすら話すわけでもなく、ただ熱い紅茶を啜って、テレビをボーッと眺める。相変わらずテレビではひっきりなしに天気の情報を伝えている。そんなに今回は大荒れていて、威力が凄まじいのかもしれない。それでも、この部屋の空気、二人の空気は秋晴れと相変わらずだ。 「…なんか暇だな」 「外出れないしね。絵も書きたいけど学校に忘れてきたし…」 「粘土もねぇ」 新聞紙を取っていないから今何を放送しているのかが解らないので、地道にチャンネルを一から押していく。ニュース、ドキュメンタリー、ニュース、ニュース…時間帯の為もあってか興味ある番組はない。つまらないなぁ、なんて思いながらまたボタンを一押し。 「あ、」 「うん?」 「映画やってるんだ」 ブラウン管に映る女性と男性。観たこともないし、その映画自体解らない。きっと有名じゃない映画。でも、そこまで古くない。時間と内容からして、多分まだ始まったばかりだろう。私とデイダラは他にすることがないので、その映画に釘付けになった。 内容はゆったりと進んでいき、暫くして恋愛ものだと気付いた。その時には展開はあっという間で、互いの心が通じ合って抱擁。その印に口付け。そして、それは徐々に深くなっていき─… 「………」 「…………」 「……………」 「………………」 「…………………デ、デイダラ!あの、なんかその、今から私見たい番組始まるからそっち見るね。うん、そうしよ!」 慌ててチャンネルを手に取り、他局に切り替えようとした直後。近くで雷が落ちる音。鼓膜が破れてしまいそうなくらい煩く恐ろしい雷鳴。ビクつく前に、瞬時に視界は真っ暗に染まり、さっきまで流れていた甘ったるいBGMも消えた。 「…て、停電しちゃったみたいだね」 「みたいだな」 一気に静かになり、ただ雷鳴と雨音だけが一層激しく響く。目の前に広がる黒さは全てを覆い隠し、何も見えない。すると、再びつんざくような雷鳴が脅かした。怖い。目をギュッと閉じて、おもむろに隣に居るであろうデイダラの傍に近付いてしまった。触れてみれば、容易に分かった。彼は此所に居ることが。それだけで、私は酷く安堵する。良かった、一人じゃない。 「……プッ」 「デイダラ、何笑ってるの?」 「悪ィ悪ィ。さっきの優月の慌てようを思い出しちまって」 「さっきのは…ちょっと急な展開にびっくりしただけで…」 「……雷怖いか?」 「うん」 冷えきっていく手に被さる温かさ。あぁ、私はこの温もりを知っている。デイダラの手。ギュッと握ってくれるデイダラの一回り大きい手に包まれる。この暗闇の中、デイダラはどんな表情を浮かべて、こんな優しいことをしてくれるのだろうか。 「デイダラはさ、あっちに居たときはこんな天気の時も外にいたの?」 「そういうときもあるぞ、うん」 「…怖くないの?」 「天気に怖がってたら忍なんてなれねぇよ。それにこんな天気よりオイラの方が怖いぜ?」 「なにそれっ。全然怖くないよ」 「笑うなよ!」 意地悪な聞き方をしてしまった。多分怖いと言うのは、雷の驚異よりもデイダラは幾人も殺めていると伝えたいのかもしれない。 出逢って、随分と時間が経った。最初の頃に比べて、デイダラは柔らかくなった。私も変わった気がする。先がどうなるかだなんて検討もつかなかったけれど、互いが今居てくれて良かったって思う。彼がいて、私がいる。その現実だけが、時間の流れと共にそうやって証明されているのかもしれない。 「雨上がったら、出掛けたいね」 「甘いの食いてぇな」 「じゃあチロルチョコ一個でいい?」 「ケチにも限度ってやつがあるぞ」 「それ誉め言葉として受け取っておくね」 雷も雨も風も、荒れた天気だと聴覚で分かる。けれども、私はそんなこと気に留めないぐらいこの暗い室内で穏やかに過ごした。 照明が点された時、目に入ったのは普段と同じように悪戯そうな笑みを浮かべる君だった。 |