君と私の物語 | ナノ



淡い陽射しがちらちらと窓から入ってきて、外界から鶯などの鳥達の囀ずりが奏でている。鏡の前でベビーピンクのグロスを唇に付けてから、ポーチと一緒に鞄の中に仕舞う。



「よし、いってきます」

棚にぽつんと置かれている鳥の置物をちらりと視界に入れてから、私は家を出た。今春で一人暮らしを初めてから二年が経った。最初は一人だからいってきます、なんて挨拶をするわけもなく外出していたのに、十一月頃から私は何故か口にするようになっていた。しかも、誰かに対して言っている。そんな気がした。考えれば考える程不思議なことばかり。十二月初め辺りに帰宅してからテレビを付けっぱなしのままいつの間にか寝てしまったらしく、起きたら私はどうやら泣いていたらしい。肌に残る涙の痕。不思議で堪らなかった。机に置いてある粘土で造られた鳥の置物に気付くと、また止めどなく溢れてくる涙。比例するかのように心が裂けるくらい悲しかった。それから歯ブラシが二本あったり、男用の服が何着かあったり。冷蔵庫には沢山のおでんの具材が揃っていた。彼氏がいないのに、同棲だなんてことはあり得ない。だからこそ、未だに訝しい。そして、何より一番変化したのは自分自身。以前の自分は描いた作品に自信がなかったのに、今は自信があってそれを作品に込めている。一体何が引き金となり、現状を塗り替えたのだろう。



麗らかな日和でとても気持ちいい日だ。東風が吹くと、ふわふわとキナリ色のスカートが揺れ、そして私の背中を力一杯前へと押していくようだ。そして、いつも通りに私は近道である隘路を通っていく。生い茂った新緑に包まれるのが続くと、途中だけ著しく人目を惹く風景に足が止まった。其処は木々は全くなく、土と草が生えてる地はぽっかりとしていて空虚。誰にも知られていない空き地のようだ。

「…」

それでも私にとって、前から此処がとても思い出深い場所に感じられた。理由は不明瞭すぎるけど、此処から見る天空は格別に綺麗に見えた。
ぼんやりと佇立してると、ゆらりと陽炎が空へとたちのぼっていた。とりとめないものや儚いと象徴される陽炎。ゆらゆらと揺れて、掴むことはできない。




優月


直後強い風が吹き荒れた。…声?いや、風の音の残聴だろうか。それに刺激されたのか、脳裏にちらちらと過る黒い面影と芽生える感情がうっすらと溢れてきた。到底私にはそれらを理解することはできない。けれど、忘れたくないって強く願っている。その全てが覚束無く、謎に満ちていることがあまりに多いけれど、私は自然に目尻を下げ口唇も緩やかな曲線を描いた。そして、自ずと呟いた。揺らめく陽炎にか、それとも見えない誰かにか。




「またね」








何故出逢ったのかは一生明らかにはならない。けれど、二人が出逢ったのにはきっと理由があったのだ。
心の奥底に閉じられた大切な一ヶ月間の彼との記憶。それは想起することは決して不可能だけれど、色褪せることなく確かに心の中にずっと在り続けている。

end...