「あーまた忘れちゃった」 薄暗い雲に覆われた空を仰ぐと、ぽつぽつと雨が強く地面を打ち付けていた。頬や髪に落ちてきた寒さをより一層感じさせる雨をタオルで軽く拭って、駅のホームで一人立ち往生。あれ以来初めて大学に行って、また同じことを繰り返すなんて自分自身に呆れてしまう。それでも傘を持参した時は中々降らないで、こうやって持っていないときに限って降るなんてついてない。 けれど、仕方ない。私は踵を返して、駅のホームの中にあるコンビニで傘を購入しようと思って一歩前へ踏み出した。 「どこいくんだよ」 ガシッと左肩を捕まれたと同時に、雨音と混じりあった馴染みある声が。振り向けば、そこには青と黄色の綺麗な彩り。傘を差して、少し息を切らしたデイダラが居た。 「な、なんで?」 「雨降ってきただろーが。しかし、帰ってくるのこの時間帯で当たってたんだな」 よっぽど急いで来てくれたのだろう。傘を差してきたはずなのに、所々濡れていた。言葉で表現するには、あまりにも簡単でありきたりだけど、本当に嬉しくって心の中が満たされていく。まさか、来てくれるなんて。 「はい、タオル使って」 「こんくらい平気だ、うん」 「結構濡れてるくせに」 若干呆れながら濡れている髪や肌を軽く拭うと、自分でやる、と強制的にデイダラにタオルを奪われてしまった。 「…これから迎えに来てやるよ」 「え」 「だから毎回迎えに来るから、うん」 「…どうして?」 「ったく、また変なこと起きたらどうすんだよ」 めんどくせぇけどしょーねぇだろ、とちょっぴりムスッとした表情を浮かべていて、でも裏の裏を汲み取れてみると沸々と込み上がってくる想い。考えてみれば、私は何時だってデイダラに助けてもらっている。一人暮らしに慣れているのに、それでも何処か心にぽっかり穴があいてるかのように寂しさが常にあった。それを意図も簡単に埋めてくれたのは、紛れもなくデイダラ。あの時だって。そう、何時だってデイダラは助けてくれた。彼の両手は無垢と言うには程遠いだろう。それでも、私にはそんなことこれっぽっちも気にならない。彼の両手は殺めるためや芸術を造るだけのものではないのだ。 「デイダラ、ありがとう」 「………おう」 「よし、帰ろっか」 「あ、やべぇ!傘もう一本忘れちまったぞ」 「一本でも大丈夫だよ」 「それもそうだな、うん」 一碧の傘に私も入って、横を眇めると随分と眩しい。こうやって傘を忘れるのも、たまにはいいのかもしれない。雨は未だに降り続けていて、本格的に寒くなっているけど、それでもあたたかった。 潦にゆらゆらと二人の後ろ姿を映していて、そしていつの間にか消えてしまった。 |