これは無意味なもんだったのか? 肉体が朽ちたのに、異世界で未だに体の機能は動いていて、息をしている。生活や環境は全く違えど、此処に順応して第二の人生みたいになっている。あいつの優しさはオイラには痛いくらい酷な優しさだった。今まであんんな優しさに触れたのは初めてで、此処にはいつも死と直面しているわけじゃないからか余計あいつの優しさがでかかった。そもそも赤の他人のオイラに何故ここまでしてくれるんだろうか。つい先日オイラは初めてあいつに忍のことや暁についてを詳細に話した。それを聞いたら、あいつは犯罪者であるオレを恐れる。そう踏んでいた。なのに、あいつは違った。ただの人じゃねぇことは充分伝えたはずなのに何であいつはあんなきれいごとみたいなことが言えるんだ? けど、なんとなくだがあいつはあの九尾の人柱力と根本的なとこが似ているのかもしれない。 「チャクラが練れねぇんじゃな」 オレンジ色の極彩飾が窓から室内をちらちらと照らす。電源を付けたままのテレビからは老若男女の笑い声が騒がしく響く。けれどそれに眼中は全くなく、掌で捏ねた粘土の鳥の造形を眺め、それを机に置いた。己の死を予感するのと同様に、もうこの世界とも今日でお別れだということに勘付いていた。感覚が徐々に鈍っていてるのが何よりの証拠だ。目の前の鳥の造形はあいつへのプレゼント(本当は動かせるようにしたかったが) 「……」 玄関の方をジッと眇めていると、カンカンと階段を上ってくる足音が微かに聞こえてきた。周りを確認してから、オイラはそっとあいつに見つからないように隠れた。暫くしてから、ガチャリと開く玄関の扉の音。靴を脱いでパタパタと歩く音が鮮明に鼓膜に伝わってくる。 「ただいま…デイ、ダラ?」 そっと息を殺して、身を潜める。オレが居なくなったことに察したのか、バタバタと急に騒がしくなった。どうやら全部の部屋を確認しているようだ。だけど、忍のオイラにとっちゃ見つからないように隠れることなんか簡単すぎる。 「なんで、いないの」 そして、あまりにも小さく感じられるあいつの背後に気付かれないように忍び寄る。こうするしか道はなかった。蟠る不可解な気持ちは心の奥底に封印するしかない。だって、オイラは元々此処には存在していないんだ。つまり、全てを元に戻せば、巻き戻せばいい。だから、全てをどうか、 意を決して、あいつの首筋を手刀で軽く叩いた。 ゆっくりとまるでスローモーションのように倒れていくあいつ。それに比例していくように、自分の意識も五感も遠退いていく。 「ありがとな」 「……デイダラの…バカ」 「ヘっ…バカじゃねーよ」 冷たいフローリングに倒れる直前にあいつを抱き抱え、ソッと下に置きながら呟いた。閉じられた瞳からぽろりと零れる涙を軽く拭っても、零れるそれにいたたまれない。そんな気持ちを隠そうとしても、何だかぐるぐるとある感情も渦巻く。徐々に己の体が薄れていく。それでも緩む頬が不思議だ。 この30日間色々あった。死を常に直面せず、平凡な世界。社会も環境も全く異なる中であいつと会って、最初は不信感しかなかった。今じゃあいつと居ると、なんつーか変なんだ。何より、会えて良かったと思えてる。だから、オイラが此方に来たこともあいつと会えたことも決して無意味なもんじゃない。偶然じゃないはずだ。なぁ、そうだろ? 「じゃあな、優月」 この世界も此方の世界でもオイラが居る所は、いつだって誇りが持てる場所だった。 |