君と私の物語 | ナノ




自分が自分らしくない。そう初めてそう感じたのは此方に来てからだ。それまでは暁には縛られていたものの、それでも好き勝手にやってきた方だし、平穏だとか平和だとかそんな言葉が似合う生活とは程遠い毎日を繰り返していた。創作活動をしてそのブツを上空から落としたり、投げたりすることが当たり前で今まで創作活動やノルマでの犠牲者は何人いるかなんて検討がつかない。啀み合い、憎まれ、恨み。そんな事なんて絶えずあり、それがごく普通の理だった。里を抜ける以前からオイラは忍としても芸術家としてももっと強靭で崇高になってやると心中に秘めて、真摯に今までの時間を費やしてきたはずだ。




「お前の負けだ」

「そんなものは眼中にねーよ」


だからこそうちはのガキの態度にはムカついた。あいつもイタチのヤローもただ血統に恵まれただけのくせに。馬鹿にしたあの赤い眼差しが忘れたいのに、今でも脳裏に焼き付いている。
今の状況になるかだなんて予想つくわけでもなかったが、最期の選択は後悔してない。うちはのガキがどうなったなんて関係ねぇ(ま、あれじゃ死んだだろーが)オイラはあの地に今までにない芸術を刻めたんだから。
暁の組織に属していたわけもあって、そのくらいオイラはただの奴とは違っていた。


「…デイダラ!」

「…な、なんだ?」
「さっきからボーッとしてるからびっくりしちゃったよ。大丈夫?」
「あ、あぁ」
「そう、それならいいけど…」

目の前で心配そうに伺う優月。コイツと会ってからもう半月以上経っていた。そんくらい経つと、以前の体力も術も気持ちも少しずつだが麻痺れてきた。創作活動だって、ただ粘土を捏ねているだけだ。たまには爆破させたいが、できねーし(その前に此方の世界じゃ、チャクラを練ることすらできねぇ)このままこんな暢気な生活をずっとしているのだろうか。赤の他人のオイラを置いてくれるのはありがたいが、優月はこれからどうするつもりなんだろう。

「ねぇ、もしデイダラが消えちゃったらさ…どうなるのかな?」
「どうなるって、そりゃあ本来の形に戻るだけだ」
「本来の形って」
「オイラは元々あの時死んだからな、うん。だから消えたら本当に死ぬ形になるだけだ」

口では簡単に言ったものの、やっぱり実際そうなるんだろう。本来還るべきとこに還るだけ。この約半月間を過ごし、環境に順応してきたのか、随分とオイラは人間臭くなったと思う。コイツの悲しい事を察し受け止め、それから気掛かりだから毎日のように迎えに行くのが当たり前になっている。前までは暇がありゃ、創作活動に没頭していたが今は優月の誘いをうけたら頷き、付き合うし手伝いもするし一緒に粘土をいじったり絵を描いたりする。

「いきなり消えないよね?」
「さぁな。オイラにも分からねぇ」
「…そっか」


「……そんないきなりは消えないだろーから大丈夫だ。だから、そんな気にすんな。顔やべーぞ、うん」
「な、なにいきなり?!」

心配性なのか優月は酷く眉をへの字にさせていた。それがあまりにも可笑しくって滑稽で笑うと、何笑ってんの、デイダラ最悪といきなり口を尖らせ始めた。
不思議なもんだ。あまり人にそんな接し方をしなかったからか、忍として暁としてのオイラとは変わっていってる気がした。他の人には分からねーが優月に対しては案外気持ちを汲み取れるようになって、最近じゃ優月は笑ってればいいんだって思い始めた。こんなオイラをサソリの旦那が見たら馬鹿にされるだろうな。もし、また彼方に生きて帰れたならオイラはどうなっているんだろうか。この変な気持ちを優先されるか、それとも爆破活動をしたい衝動を有りの儘に晒け出し以前と変わらない日々を繰り返すのか。分かりきってる。オイラはまた繰り返すだけだ。何より好きな事をしてそれを高めていきたい。だけどやっぱりコイツの前では不思議とそういう考えが出てこない。

「今日デイダラ夕飯作りねー」
「は?オイラ作れねーの分かって言ってんのか?」
「女に向かって顔やばい発言は傷つくんだからね」
「じゃあ今日はピザでも頼むか。確か広告がこの辺りにあったよな…うん」
「ちょっと誰がお金払うと思ってんのー!」

ギャアギャアと騒ぐオイラと優月。こんな一時だけは爆破したいという気持ちも心の底に封印され、楽しんでいたいと率直に感じていた。




それが良いか悪いかなんて分からない。ただオイラは此処の世界に居すぎたのかもしれない。