decalcomanie | ナノ

空気読めばか!



今までの涼しさがまるで嘘のようで、廊下が自棄に蒸し暑い。昼休みの所為もあってか廊下は人が多く賑やかで、弁当やコンビニの袋を持ってたりこれから購買のとこに買いに行くのか財布を持ってたりといろんな奴がいる。結局あれからオイラと早水は他愛ない話を沢山したり、携帯のアドレスをお互い教え合ってたりして、漸く終止符を打った時には既に四時間目に突入していた。あの時の早水の反応はおもしろかったな。なんて考えながら、自分のクラスへと入っていく。と、視界に入ったのは仁王立ちして如何にも不機嫌極まりないサソリの旦那が。あ、やべー。いつも通り今日も購買で買ってからトビや飛段や生徒会長であるペインやらと、所謂暁のメンバーで生徒会長室で食べてるんだが、昼休みに入って数十分。旦那は待たせるのが人よりも何十倍ってくらい嫌いだったんだ。つまり、今オイラは逆鱗に触れちまった訳だ。

「デイダラ、てめぇいつまで待たせるつもりだ?」
「悪りィって」
「それより、何昼までサボってるんだ」
「も、元々は旦那がいけねぇんだろ、うん」

確かにオイラがあの時鈍かったせいもあるが、一人でとんずらした旦那にも責任はある。それに旦那だって、よくサボるくせに。と、口を滑らせてしまうとゴンッと頭を殴られた(この悪魔!)それから、怒りを通り越して既に呆れているのか旦那は溜め息と共に、行くぞと吐き捨てた。行く場所はトビのいる教室だ(わざわざ迎えに行くのめんどくせー)

「…ったく、一人でずっと寝てたのか?」
「それがよ、旦那っ!一年におもしろい女がいたんだ、うん」

話さずにはいられなくなって、オイラは旦那に早水のことを話し出した。かなり大まかに今までのことを話したり(勿論、今日はあれが水色だってことは言ってないぞ)その女のことを言うとサソリの旦那はほぉ、と一言添えた。歩きながら、此方を見据えて。

「珍しいな」
「何がだ?」
「女の話するなんて」
「…そういうんじゃねーよ」
「どうだかな」

にやりと笑う旦那。確かに女の話を自らするなんて、かなり久し振りだ。それに内容が告られたとかそんなんじゃなくって、普通に女の話。それより、なんか忘れてるような。財布は、持ってるしな。歩きながら、上の空にしてるとパッと先程まで噂していた女が脳裏に現れた。そういや、確かあいつのクラスってA組だったな。

……A組?


「そうだ、あいつトビと同じクラスだったな」
「気になるとこだったから丁度いいぜ」
「え、旦那気になるのか?」
「なんだ、悪いか?」

「別に、うん」

きっとオイラが珍しく女の話を自らしたからだろうけど、それでも旦那が女に興味持つなんて奇跡に近い。旦那はいつも追ってくる女をあっさりと一刀両断してしまうのだから(オイラも断るがそんな酷くない、多分)旦那曰く、うぜぇ…らしい。執拗にオイラ達を追う女共がいるから、余計そう思ってしまうのだろう。けど、そんな旦那がもしあいつに、早水に好意を持ったら?そんな細やかな質疑が一瞬浮かんだが、聞き覚えのある声が耳に届くとそんな自問はパッと消え忘れた。

「デイダラ先輩ーっ!」

数メートル先のドアの上には1−Aと書かれている白いプレートが付けられていて、その付近でトビが手をぶんぶんと振っている。そんなトビの言動にサソリの旦那は舌打ちを軽くする。オイラは勿論これからのことを予期して、トビの毎度の馬鹿さに呆れてしまった。
その時、何人かの女子が教室から出てきてあのっ、と控え目に声を掛けてきた。トビはその様子を理解してから、またッスかーと叫んだ(元々はトビが原因だろ!)その今の状況は大袈裟に言えば日常茶飯事に繰り返されてる為、オイラとサソリの旦那は平然としていた。が、その声を掛けてきた女子を瞳に映すとお互い目を丸くしてしまった。それは毎度ストーカーのように付きまとうしつこい女子ではなく、如何にもおとなしそうな女子だったのだから。その女子の後ろでは頑張って、と声援を送っている数名の女子が。その状況と雰囲気でその女子が“告白”しようとしているのは明確だ。サソリの旦那を一瞥した女は躊躇している。どうやら、サソリの旦那らしい。

「サ、サソリ先輩っ!」
「あ?」

「あ、の…」

「デイダラ」
「な、なんだ?」
「先、購買に行ってるわ」

あとは頼んだぜ、と肩をポンッと軽く叩かれた。
これってサソリの旦那に告白しようとして未遂で終わったんだよな。つまり、オイラが仲介して断るってことか?うわー、それって最悪なパターンじゃないか。旦那ー、そんな役に回るのはごめんだ。って、旦那もういねぇ!早っ!目の前には瞳を潤ませて俯く女子(オイラが悪いことしたみたいじゃねぇか)とりあえずこの状況を打破したいので、なんとかしてこの女子を宥めようとフォローの言葉を、オイラはしどろもどろに掛けてみた。

「えっと…実は、旦那は女がすげー苦手なんだよ。な、トビ?」
「あれ、そうでしたっけ?」
「バカヤロ、てめっ!そうだって言えよ、うん!」

「もういいです」

フォローは結局トビの所為で虚しくも失敗に終わると、女子は苦笑を浮かべた。無理に笑みを刻む顔はとても辛そうだ。多分純粋に旦那のことが好きだったのだろう。そして周りの女子がその女子を慰めながら、教室へと踵を返して行った。終始それを眺めていると先輩、最悪ッスね、とトビがほざいた(どう考えてもトビのせいだろ)オイラの堪忍袋が爆発したので一発トビをぶん殴ってから、オイラとトビは旦那の後を追っていく様に購買へと向かった(こりゃあ、この時間じゃもういつも売れ残る混ぜご飯しか売ってねぇぞ…)



(先パーイ、財布忘れてきちゃいました)(オイラ貸さねぇぞ。教室から取ってこいよ)(いやー、家に忘れちゃったんスよ。だから貸してください)(トビ、コラァァアアア!)