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「疲れた…」

項垂れる重い身体をゆっくりと前進させ、自分のクラスの方へ歩む。デイダラ先輩と飛段先輩の爆弾級の突撃から漸く開放され、その後テンテンにたくさん質問攻めをされ、今に至る。もうあんな恐ろしいことに立ち会いたくない。というものの、今までの私と暁の先輩達の関わりは幸い他の女子に目撃されなかったからこそ、平和にここまでこれたものなのだ。それこそ、奇跡に近いだろう。普通誰かに視認され、熱狂的なあのファンの方々から凄まじい忠告がきているはずなのだから。それは予想ではなく、確実に。現に今までも、そのようなことが多々あったようだ(テンテン情報より)なんでも暁の先輩と付き合っていた女子は何人も存在するのだが、執拗な悪戯などにより結局別れてしまっていたり、仲良くするだけでも完全にアウトらしい。私、大丈夫なのかな…?

「あり得ない」
「そりゃ、普通の男子とは違うからね。まぁ、今回は人があまりいなくてよかったことだね。今後は気をつけなさいよー!」

心配しているんだからね、とテンテンは早口で言うと次の参加競技である借り人借り物競走の集合時間になったらしく、性急に走って行ってしまった。秋だというのにこの暑さの所為なのか、それとも先程の件でなのか、ドッと疲労感が襲った。重い足を引き摺るように歩んでいきヒナタ達と合流し、競技に出場しているクラスメイトを応援を後ろの方でこっそりとすることにした。パーンとスターターピストルの音がすると空中へと消えていった。スタートをきったのは一年生の借り人借り物競走。あれ、何か忘れているような気がするとふと脳裏をかすめるが、テンテンの番になると一気にそんなことは消散していった。

「透子−!!」

テンテンは地に置いてある紙を取ると、躊躇することもなく此方へと猛ダッシュで走ってきた。私の名前を叫びながら。え?これは、もしかしての、もしかして……。

「早く来て!」
「やっぱり!!」

予感的中。拒む隙もなく、瞬時に周囲のクラスメイトに押し出され、どうやら私はテンテンの借り人になってしまったようだ。それからテンテンに付いていくように百メートル程奔走すると、白いテープをきった。ぶっちぎりの一位だ。

「テンテン、紙になんて書いてあったの?」
「平凡な一年女子」
「え?」

透子しか思い浮かばなかったと皮肉も多分籠って笑うテンテンに、思わず苦笑してしまった。しかし、変な借り人借り物競走だ。なんて話題を口ぐちにしながら、クラスの所へテンテンと戻り、観戦すると一目瞭然。明らかに見つかりっこもない物を未だに散策している競技者や競技中だというのにも関わらず、競技者であるサスケ君は何て記入してある紙を取ったのかは不明だが、スピーディーにナルトを選抜し、距離を空けてケンカをしながらゴールイン。もちろん界隈にいるサスケ君ファンは声援を打ち消すほどのブーイング。さすが我が高校の体育祭はちょっとどころじゃなく捻っている。そして、再びスターターピストルがパンッとスタートの合図を出した。瞬間、サスケ君のファンのブーイングにも負けない黄色い声色。この声のファン達は、もしかして……と開始した方へと視線を移せば、そこには目が眩みそうなくらいのイエローが靡いていく。その色彩を忘れるはずもない。


「そういえば、出るって言ってたな」

軽やかに快走していき、あっという間にトップを独走していくデイダラ先輩。美術部に入っているのに、運動神経も抜群なんだなーと自然と魅き付けられてしまっていると、甲高い声音が徐々に鼓膜を穿孔してしまうくらいボリュームが大きくなってきていた。あの色彩も遠くにいたのに、目前に迫ってきている。デジャブ?これってもしかして、そうだと信じたくないけれどこの状況さっきと酷似している。そして私の名前をあの低音で最大に呼ばれ、嫌なことが惹起される予感がする。予感というより明白…かもしれない。
眼と鼻の先までの距離になり、漸く数歩後方へとひくが、今更遅かった。ぐらりと視野が歪み、片手が妙に温かい。


「こいよ、うん」
「いや、でも…!!」
「いいから、こい!!!」

ニヤリとするデイダラ先輩にこれ以上抗う術がなかった。いや、本当は全身全霊を込めて拒否することだって可能なのに、何故だかできなかった。そして口では戸惑いを隠せないでいるというのに、足は勝手にデイダラ先輩の元へと動いていた。そんな私の言動に満面な笑みを浮かべながら、「本当にお前おもしれぇな」と発すると顔が自棄に熱く感じた。これは、この炎天下の所為に違いない!!
デイダラ先輩に引っ張られ、耳にタコができそうなくらいのブーイングを心中でシャットダウンしながら、またまた余裕のゴールイン。実況放送では「またもや借り人に駆り出されたのはあの一年生!勝利の女神か!?」だなんて全校生徒の前で報じられる始末。恐ろしい視線までセットで。
終わった。グッバイ、平凡な高校生活。


「透子、サンキュー。紙取った時つい焦っちまったぜ、うん」
「紙に何て書いてあったんですか?」
「…あー、い、一年の地味な女子って引いたから透子しか思い浮かばなかったんだよ、うん!オイラ、一年の女子お前しか知らねぇしな」
「地味って…!!」

どうせ私は勝利の女神なんかじゃなくて、ただの平凡で地味の女子高生だよ!そりゃ間違いないけれど、何だか悔しくなって項垂れると、デイダラ先輩は「オイラ、そーいうとこ好きだぞ」なんてさらりと言いのけた。これからのことを考えると末恐ろしいが、もう引き返すのは諦めた。とりあえず先輩、そんな言葉意図も簡単に言わないでください!!


(先輩、冗談ですよね?)(…ばーか!あたりめぇだろーが!もしかして鵜呑みにしたのか、うん?)(まさか!それよりファンに言ったら、(言うか、絶対!))