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ブレーキは最初からないのさ



きらきらと雲一つない秋晴れ。まだまだ綺麗な体操服を身に纏って、このグラウンドに三学年全員が集まっている。漸く試験に解放されて、今日は待ちに待った体育祭だ。高校に入学して初めての体育祭だからワクワクする。運動が際立ってできるわけではないけれど、やっぱり友達と盛り上がれるのは楽しいから。
そんなこんなで我が校の体育祭が始まった。パンッと天空に響くスタートを示すスターターピストルの音。最初のプログラムである百メートル走が始まった。基本学年ごとにクラス対抗で勝負して点数を稼いで勝者を決めていくようだ。クラスで分けられている応援席でテンテンとヒナタと見ていれば、暫くすると急に煩いくらいの黄色い声が耳に入ってきた。


「な、何?」

「透子ちゃんと見てる?ほら、あそこ」

テンテンが視線をそちらに向ける。私も一緒に付いていくと、そこはスタート地点のグラウンド内で、これから走るのであろうやる気十分にありそうでやたらと目立っている…



「鬼鮫先輩…?」

「バカ、違うって。隣の隣!」
「隣の隣の…」

ゆっくり移動すればそこにはイタチ先輩が。なるほど。あれじゃ女子がキャーキャー叫びたくなるんだろう。始めは鬼鮫先輩が走って、次に鬼鮫先輩と同じクラスのイタチ先輩がスタートラインに立って走った。二人とも運動神経抜群の印に一位でゴールイン。さすがだ。
何ていうかイタチ先輩のオーラが他の人と違うっていうか…。



「飛段ー!」

女子が叫んだ名前にハッとして、自分の番を待っている集まりを見るとそこには言葉通り飛段先輩が。ギラギラと太陽で一層輝く銀髪が眩い。飛段先輩はイタチ先輩とは真逆で女子が名前を叫べば、手を振って応えている。イタチ先輩はと言うと、まるで声が聴こえてないんじゃないかってくらいスルーだった。でもイタチ先輩も笑えば一撃が大きいけれど。


「…希少価値なんだ」

「何が?」
「え?!あ、暁の彼女になれるのって本当に希少価値なんだなーって」
「当たり前でしょー。あんだけファンがいればね」


巡る廻る変わる私の日常。何だか未だに実感が湧かない。暁の人達と喋ったり、一緒にご飯を食べて、勉強を教えてもらったなんて。入学して暫くした頃に暁の存在を知って、平々凡々で平和に毎日過ごせればそれでいい。常日頃そんな気持ちが心に在ったのに、随分と変化した。少しくらいは今のような状態も良いな、なんて思う。だからイタチ先輩だけじゃない。暁の皆全員、オーラが他の人と異なるように見えるのだ。知り合いなんて、そんなことファンの人にバレたら多分半殺しにされるのだろうか。


「あ、次飴食いだ」
「よし、私たちの実力見せなきゃね!」

一位獲ってやる!相方であるテンテンと誰よりも熱い闘志を燃やして……

結果、三位。顔は舞妓さんみたいに真っ白。お互いの顔を見るなり吹き出して、記念に写真を撮った。ちなみに飴は葡萄味。


「透子、顔洗いに行こー」
「このままじゃやばいからね」

写真を何枚か撮って一段落し、洗いに行こうと踵を返すと、背後から「早水ー!」と聞き覚えある低い声が。ギョッとして固まると、隣に居るテンテンが不思議そうに振り向いた。すると、え?と同じ言葉を幾度も連呼する。


「早水、こっち向けって」

終わった!確実に半殺し確定。あまりにも現実味がありすぎて、サーッと青ざめていく。けれど、もうどうしようもないのでくるりと一回転すれば、やはり其所にはデイダラ先輩。と飛段先輩。更に終わった…!


「ぶはっ、お前頑張ったな!」
「ゲハハハ、真っ白すぎだろォ」

「ねぇ、透子いつこんな仲になってたの?」
「あーっと…成り行きで」
「成り行きでそうなるか!」

「あ、借り物借り人で一年って出たら早水んとこに行くな」
「…じゃあ隠れてますね」
「隠れないように見張っておいてくれ、うん」
「あ、分かりました」

よし、写真撮ろうぜとはしゃぐデイダラ先輩。プラス飛段先輩。周りはグラウンドに比べたら、あまり人はいないものの、女子が通る度に恐ろしい視線が痛いくらいに突き刺さっていく。明日から非日常が始まる。そんな直感が直ぐ様過ったけれど、それでも何故か心が跳躍している自分、笑ってしまう自分がいた。



(ゲハハ、化け物みてぇだな、ほんと)(先輩言い過ぎですよ!)(初めて話したのに化け物扱いって…)