decalcomanie | ナノ

シュークリームな脳みそ



夏休みが終わってからの、高校生活初めての中間試験が間近に迫っていた。マンモス校である本校は風紀は基本的に自由で、部活も強制に入るという決まりはない。けれど、ある意味では文武両道なんて言葉を掲げてもおかしくないのが我が学校だ。と、言うのも様々な部活の大会で優秀な成績を残していて、勉学に関しても天から地までの偏差値を誇っている。その中、私はまぁまぁという感じだ。良すぎでもなく悪すぎでもない中間地点だと…思っている。


「あー」

静粛した図書室の机へに頭を倒して、小さく呻いた。淡い橙色の陽が照らされながら、窓際へと視線を移す。外から部活動をしているであろう印の声が微かに耳に届いた。試験が近いというのに部活に励む人は頭が良い、悪い関係なく尊敬する。横に重なっている教科書と悶々と向き合うよりは数倍体を動かした方が楽しめるのが羨ましい。ハァと真っ青な溜め息を吐くと、突然隣からガタッと音が鳴り、私は反射的に飛び起きた。

「あ、」
「……よっ」
「…………どうも」

そこにはサソリ先輩が座っていた。目を丸くして固まっている私に対し、サソリ先輩は教科書とノートを開いていく。というか、何で席隣?辺りを見渡してみれば、座席はほぼ満席状態であった。しかも、この時間もあってか皆真面目そうな人達ばかり。良かった。サソリ先輩目当ての女子は居なそうだ。


「お前、図書室で勉強してるんだな」
「今日が初めてですよ。サソリ先輩はいつも図書室で勉強してるんですか?」
「たまにな。この時間ならあんまりうるせー奴等いねぇし」
「…確かにそうですね」
「……」
「………」
「……見えてるぜ」
「え……あっ!」

サソリ先輩の視線の先を辿れば、そこには私の前回の哀れなテストが。すぐさまに裏に返して点数やらを隠すが、言われた時点でアウト。最悪だ。まさか至上最悪な点数を見られるなんて。

「それ、次点数かなり採んねぇとやばいだろ」
「…かなりやばいです」

さっき述べたことは前言撤回!成績が中間なんてこと、こんなテストの結果じゃ誰にも信じてくれるわけがない。この際テストなんて赤点から逃れれば、それでいい。大体赤点採っても、平気なものはかなり打撃を食らわずに済む。けれど、それは教科の先生によって大分異なるのだ。で、私が至上最悪な点数を採ったこの教科は、今回赤点採っても、ぎりぎりセーフでも補習。学校一受けたくない補習とまで言われてるくらいだ。さすが、森乃イビキ先生!


「なんかイメージ通りだな」
「何がですか?」
「頭良くねぇの」
「………イメージも何もありませんよ、もう」

厚く見える教科書を虚ろげに眺めながら呟けば、サソリ先輩は裏返しにしたあのテストを表に返した。


「あまりにもかわいそうだから、オレが教えてやろうか」
「え?」
「なんだよ?」
「あーっと、なんかサソリ先輩のイメージが変わったなぁって」
「やっぱり止めた」
「嘘です。是非教えて下さい」

仕方ねぇな、とふわっとした赤髪をくしゃくしゃと手で掻くサソリ先輩。そういえば、サソリ先輩って頭良さそうだけど実際どうなのかな。暁の中でサソリ先輩とイタチ先輩、小南先輩辺りは頭良さそうなイメージがあるんだけど。そんな思いが過ったけれど、その浅ましい考えはすぐに打ち砕かれていったのだ。



「できたー!」
「…やっとかよ」

あっという間に時間は経過し、気付けば図書室にいる人は更に減っていた。漸くこの教科の免疫がついてきたのも、サソリ先輩の教え方がすごく上手かったからだ。しかも、先生より何倍も解りやすかった。本当に今回の試験どうにかなる、なんて余裕皆無だったけれど、サソリ先輩のおかげで少し余裕ができたと思う。本当に感謝してる。それでも、まだサソリ先輩のことがほんのちょっぴり怖い。けれど、これを機会にかけ離れていた距離が若干縮んだ気がした。



(しっかり教えたんだから、悪い点数採るんじゃねーぞ)(は、はい!(やっぱりイビキ先生より怖いかも…))