decalcomanie | ナノ

霞む世界に寝転んでみる




…3、2、1


ふわりとスカートが揺れる。チャイムが五月蝿く鳴った瞬間、必要な物を持ってダッシュ。鳴る事前に教科書とノート、筆箱を仕舞っておいて良かった。テンテンに何処に行くの?と早速止められて、私は屋上!と慌てながら、再びダッシュ。目的地は勿論生徒会室。早々に教室を後にした理由は、あの先輩が来るから。

自分生徒会長室の付近は静かだ。此処があまり人通り少ない廊下だからかもしれないけど、それが酷く不思議だ。暁が好きな女の子で芸能人を追い掛け回すみたいに此所まで来て、張りついている子が確実にいそうなのに。きっとペイン先輩が生徒会長の権力をフルパワーに使って、どうやってか抑えてるのかな。生徒会長室の扉前で、一息吐いてから開くと、其所にはイタチ先輩。一人でペットボトルのお茶を飲んでいて、バッチリと視線がぶつかり合った。


「あ…こんにちは」

「…お前、一人か?」
「はい」

イタチ先輩はおもむろに閉じてあるパイプイスを取りだし、置いてくれた。さりげなく優しい人だな。いや、本当はとても優しい人なのかもしれない。軽くお辞儀をして、本当に隅っこの方に持っていて遠慮がちに座った。

「…」
「……」
「………」
「…………」

なんか…すごく気まずいかも。今日はコンビニでお昼ごはん買ってきちゃったし、飲み物もあるし、トイレも行きたくないから、この場から離れる理由はない。少しくしゃくしゃなプリーツスカートをボーッと眺め、前へと視線を戻すとイタチ先輩と再度目が合った。あ、やばい。目、離せない。かっこいい……じゃなくて、何か話さないと!

「えーっと、今日は鬼鮫先輩と一緒にいないですね」
「いつも一緒にいるように見えるか?」
「…なんとなく」
「じゃあ、これからはそういうことじゃないということにしてくれ」
「はい!」

ほんのちょっと微笑むイタチ先輩。イタチ先輩の笑顔を初めて見た。イタチ先輩ってこんなに柔らかく笑うんだ。こんな笑顔を目の当たりにしたら皆ときめいて、一瞬で惹かれてしまうのだろう。ゆったりした雰囲気が漂い始め、緊張が解けてきた今、直後にそれを消してしまうかのように勢いよく扉が開いた。お互い自然にそちらに振り向くと、其所にはサソリ先輩とトビ。プラス銀髪の、例の飛段先輩。



「お、お前があの噂のやつかァ?クラスに居なかったから、探してたんだぜー。こんなとこに居たのかよ」
「早水さん酷いっスよー。先に行くなんて」

「……」

ドキドキする焦燥とは裏腹にゲハハと大袈裟に笑う飛段先輩。サソリ先輩は早々と席について、日替わり弁当とパックのお茶を開けていく。ボーッとしてると、じっと飛段先輩が此方をあのマゼンダの瞳で見てくる。その瞳に映る私は如何にも慌てている。もしかして、やっぱりあの時私が覗いてしまった張本人だってことがバレているのでは…?それなら、私にはもう素直に謝るしかない道はない。


「あの、その別に見」「お前、案外可愛いじゃん」


「……………え?」
「で、デイダラちゃんとどこまでしたんだよ?つか、何時付き合ったんだァ?」
「えぇ?!」

待て待て待て。話がよく解らない。それ以前に会話が全然噛み合っていなかった気がする。何時付き合った?誰と?デ、デイダラ先輩?大体、どうやったらそういう作り話ができるんですか。


「こいつとデイダラ別に付き合ってねぇみたいだぜ」

ドカッとパイプイスに座るサソリ先輩は一言だけを添えた。それはまるで特効薬のように目の前で盛り上がっている彼等を瞬時に静かにさせる。そして、飛段先輩は次はサソリ先輩に大声でまじかよォ!?と問いただしていた。でも、何だかこの先輩、反応全てが大袈裟でおもしろいかも。


「嘘じゃねぇよ。そもそも、こいつはどう思ってんのかは分かんねぇけど、あいつは…デイダラについてはお前もよく知ってるだろ?」
「…あぁー、そうだった!そっかァ、つまんねぇの」
「さすがサソリ先輩は、デイダラ先輩のことよく分かってるスよねー」

うんうん、と頷く三人に私は蚊帳の外で傍観。サソリ先輩が言ってたデイダラ先輩についてって、一体なんのことなんだろ?


「あれ、そういえばデイダラ先輩は?」
「今頃売店で女子にもみくちゃにされてんじゃないですかー」
「…もみくちゃ」
「ゲハハ、ありゃ告られてるぜ!」
「デイダラ置いて逃げて正解だったな」

隣で黙々と昼御飯を食べているイタチ先輩と何やら和気藹々としている三人。私はまだまだ先輩達のことを知らない。唯一既知していることは、特別に見られるけど実際そこまで特別じゃないってこと。それから、あたたかく笑うってことなのかな。



(あれ、もしかしてやっぱりデイダラ先輩のこと好きなんじゃないんですか?)(だーかーらー違うって!)