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ブルーな気持ちで、いちにいさん




カツカツとチョークの音と周囲の話し声だけが自棄に五月蝿く教室内を響かせている。あれから“あれ”を目撃してしまってから、数日が経過していた。覗いてしまったのがバレてるという確証があるわけでもないし、何よりもあの状況下私に気付くはずがない。だけど、ほんの僅かだけど不安がぐるぐると渦巻いていた。あの時、なんでこっちに振り向いて笑ったのか。しかも、あの目とバッチリと合ってしまった。気付かずに、そんなこと有り得るのだろうか?何よりも、別に普通の人ならいい。だけど、あれは…。


「早水さん早水さん」

悶々としていると、背中をつんつんと指された。私はゆっくりと背後へ振り向くと暑苦しいオレンジ色のお面が。あーなんでこんなにも私は席替えのくじ運がないんだろう。窓側っていうのだけはいいんだけど。そもそも前回も前斜めにトビがいたし、前々回も私より前から二番目にいたし(あれ、どんどん近付いてるような…)



「昼今日一緒に食いませんか?」

「なんで一緒に食べなきゃいけないの」
「オレだけじゃないスよ?」
「もしかしてデイダラ先輩達と…?」

当たり前じゃないですかー、とトビはやや小さめの声で答えた。大体予想していたけれど、まじですか。確かに先輩達とのお昼は騒がしいけど、それでも心が弾んでいるのも事実。いやいや、でもやっぱりここは丁重にお断りした方が自分の為。だって、もしオッケーして生徒会長室であの人に会ったら…。


「私がいつもテンテン達と食べてることは知ってるよね?というわけだから無理です」
「連れてこないとオレ死ぬんでそこんとこお願いしますよ〜」
「やだ」
「やだって言わないでくださいよ。デイダラ先輩、早水さんのこと気に入ってるんスよ?」
「……」
「あれ、やっぱり二人なんかあるんですか?ほんと、二人共素直じゃないんですね」
「違うわっ!とにかく行かないからね」

うわーひどっ、と煩く嘆くトビに私はあしらうことなく無視して、正面へと戻った。カチカチとシャープペンシルを無意識にノックしながら、真っ白なノートの薄い青色の罫線を辿って眺める。気に入ってるって、それってデイダラ先輩にとってのただの暇潰し相手としてってことなのに、一瞬頭がショートしてしまった自分が何か情けなく感じてきた。デイダラ先輩もそうだけど、サソリ先輩やイタチ先輩に告白されたら、さぞかし極上に幸せなんだろうな。だけど、不幸だってある。多分それはきっと一般人よりも凄まじいのだろう(所謂、女の戦いってやつ)平和に暮らすなら、心に歯止めを掛けるように己に言い聞かせなきゃいけない。


「あ、そういえば飛段さんが多分早水さんのことやたらと探してましたよ」

「…………はい?」

トビの特徴ある声が背後から届き、脳内でエコーする。えっと、なんで?それって、もしかしてのもしかして、あの時私が覗いてたことバレてるってことだよね?探してるって、それしかないよね?バッと再度後ろに振り向くと、オレンジのお面が視界に入った。


「で、昼休みに飛段さん来るみたいッスよ」
「何処に?」
「此処に」
「何で?」
「さぁ?オレもよく分からないんですよ。そういえば、デイダラ先輩にも話し掛けてましたよ」
「デイダラ先輩に?」

何が目的で私を探してるのかが辻褄が合わない。だって、確かに私のことをデイダラ先輩は知っているけどわざわざ話し掛ける意味無いはずだし。とりあえず今日はこの教室に居たら、周りの女子が凄いことになって身の危険が生じるから、いない方がいい。だから、どうせなら、

「トビ、やっぱりお昼一緒に食べる」
「まじッスか!よかった〜じゃあ先輩にメールしときますね」

ノートの罫線を眺めながら、私は決心を固め、黒板に綴られている字を写していった。



(メールするんですけど先輩に伝えることありますか?)(じゃあ、コッペパンのイチゴジャムとバターのお願いしますって伝えといて)(やっぱり何か二人怪しいッスね〜)(何か言った?)(別に!)