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夕焼けカスタード




「…つ、疲れた」

どこまでも広がっている空はいつの間にか茜色に染まっていて、校舎は朝や昼とは打って変わって静けさだけが漂っていた。漸く学校が終わった、そう安堵した瞬間にイビキ先生に今まで捕まってしまっていたのだ。とりあえず言い訳しました。体調悪く保健室に行ってたと(ごめんなさい、イビキ先生)そして解放されて、今に至る。漸く学校を後にして、一日の疲れを背負いながらとぼとぼと家路へと歩んでいく。
思い返せば昼休み、デイダラ先輩達に半強制的に拉致られて、それから漸く教室に戻れた時のこと。テンテン達に色々言われそうだなぁ、なんてことを懸念しているのも今考えれば馬鹿馬鹿しい。このくそ暑い中、また屋上行ってたの?その一言で終わったのだのだから。

「…ま、これでよかったんだよね」

「何がよかったんスか?」
「きっとあれだな、オイラに会えてよかったんだろ」
「冗談やめてよ。何がよかったって、バレないで何事もなく済んだから…って、え?」

くるりと踵を返すと、そこには見慣れきった二人が。にやにやと企み笑いを浮かべるデイダラ先輩に表情は伺えないものの何やら楽しそうなトビ。さ、最悪。最後の最後まで関わるなんて。きっと今日は厄日に違いない。なんて嫌々してるけれど、何故か憎めないし後悔はしてない。二人が私にとって天敵みたいなものに値するはずなのに、それでも楽しいと跳躍する感情が芽生えていたから。

「何がバレなかったんだ?」
「あー、それは…イビキ先生に嘘ついたことがバレなくって良かったなーって」
「そういえば早水さん、今日かなり授業サボってたんスよ」
「いや、それはその…」
「そりゃあオイラとサボってたからな、うん」
「えっ、先輩と早水さんまさか本当に付き合ってるんじゃないですよね?」
「だから違うって言ってるだろーが。何回も同じこと聞くんじゃねぇよ」
「そうそう!デイダラ先輩とは偶然屋上で会って、それで一緒にいただけだから」

口が裂けても、デイダラ先輩の上に落ちたとか言える訳がない。デイダラ先輩と私が否定しても、トビはそれでも二人お似合いっスよーとデイダラ先輩と私を交互に見て、ヒューヒューと囃し立てる。どうやら、全く先程の私達の言葉に耳を傾けていなかったようだ。最初はデイダラ先輩はトビの一つ一つの言葉に対して反論していたが、暫くすると呆れてきたのか、あぁそうだな、そりゃよかったとか投げ槍すぎることを口走り始めていた。投げ槍すぎるというか、流石にトビの意見に同意しないで下さい。むしろ、同意は困る!だって、それじゃ付き合ってるっていうでっち上げの噂が流れそうだから。二人の漫才みたいな会話を端から眺めながら、悶々としているとある分かれ道でトビが立ち止まった。

「じゃ、オレこっちなんで」
「早水もか?」
「あ、私はこっちです」
「なら、オイラと一緒だな」

ヘヘッと笑う先輩につられて、自然と笑ってしまった。トビとバイバイすると、ギャーギャーと騒々しく暑苦しかった空気は一気に冷めていた。オレンジ色の夕空にハァと吐息を溢し、隣を一瞥するとデイダラ先輩の髪は空と同じ色に染まっていた。
こうやって一緒に歩くなんて、あり得ないはずだったのに。でも、今こうやって知り合ってしまった。周りの女子は黄色い声を挙げながら彼等に集っていたから、やっぱり私とは違う世界の人なんだって今まで抱いてた。けど、今日関わってしまったことで解った。憎めなく嫌いになれない理由も。騒々しくって、でもどこか温かくって。きっと、私の学年の人達と変わらないんだよね。

「今日はありがとな」
「…何がですか?」
「日替わり弁当!」
「あ、じゃあこれで今日の屋上のとチャラにしてください」
「やだ、うん。そのかわりに今度なんか奢ってやる」
「えーじゃあ甘いのをたくさん!」

ゆらりゆらりと動く影。アスファルトも塀も全部夕日色となって、心までがまるで染まったかのように温かい気持ちになっていた。




(じゃあ、アップルパイとチョコ生クリームパンとプリンとミルクティーと)(そんなに奢ってやんねーぞ!つーか、その組み合わせあくどいだろ)(えー)