平行線をたどる日々



「音羽、これ分かる?」
「それ授業中に先生が説明してたぞ」

机を挟んで向かいに座った音羽がノートを広げる。そのまとめ方があまりにも分かりやすくて、倉持と2人で思わず感嘆の声をあげてしまった。
放課後の教室。中間考査が迫る中、俺たちは赤点を取らないよう勉強会なるものを行っている。と言っても、俺と倉持はほとんど音羽に教えてもらう側なのだけれど。イケメンで性格は男前、少し口は悪いけれど頼りになるしスポーツもできる。そしてほとんどの教科で良い成績を残しているのだ。だから、考査期間になる度にこうやって音羽に教えてもらっている。
そんな音羽にも苦手科目はあって、英語が嫌いとのことで。苦手と言っても彼の基準でだから、平均くらいの点数は取れるのだろうと思っていたのだけれど、実際蓋を開けてみれば赤点ぎりぎり回避といった点数で、倉持と2人で物凄く驚いた。一教科だけここまで壊滅的なのも珍しいなんて話をしながら、考査期間はお互いに勉強を教え合うということで落ち着いたのだった。

「これ意味分かんねぇ」
「この構文使うんだよ」
「は? 何で?」
「いや、書いてんだろ。これ使えって」
「こんなの使わなくても一文を短くすれば簡単な単語だけで文章作れんだろ。何でこんなややこしいことすんの?」
「いいから文句言ってねェでこれ使えや!」

頭がいい故のポンコツ具合に腹を抱えて笑う俺の横で、倉持がぶちギレている。不満げにしながらもワークの解答欄を埋めていく音羽は、「英語の構文とか、見ただけで蕁麻疹出そう」なんて言いながらシャーペンを動かしていた。

「音羽、これは?」
「それ俺も悩んだんだけど、教科書58ページの応用のとこに小さく書いてんだよ。あ、これな」

俺の教科書を覗き込んで、とんとんと小さく書かれた数式を指で叩く。綺麗な指だななんて思いながら彼を見れば、思ったより顔が近くにあって息を飲んだ。彼は気にすることなく説明を続けるけれど、どくどくとうるさい心臓を鎮めようと必死な俺の耳には説明が全く入ってこない。

「一也?」
「っ……悪ぃ。ちょっと、トイレ」

とにかくいったん彼から離れようと嘘をついて教室を飛び出す。不自然なのは分かっているけれど、おそらく倉持が上手く言い訳をしてくれているだろう。
教室を出て、角を曲がったところで壁に背を預けてしゃがみ込む。音羽の性格もあってか普段はいつも通り話せているのに、こういうふとした瞬間に距離が近くなったり触れられたりすると顔や触れられた部分が熱を持って仕方ないのだ。音羽は全く気にする様子もなく今まで通りだから、俺の反応に気づいているのかどうか分からないけれど。それが安心できる要素でもあり、自分は恋愛対象ではないと言われているようで悲しくもあった。

「ああ、もう……」

どうすりゃいいんだよ。
独りごちて、頭を抱えた。そもそもあいつの恋愛対象は女だから、自分に勝算がないのは分かっている。教室で何の抵抗もなく触れられるのも、食堂で一口ちょうだいなんて言われて間接キスをすることも、今までは仲のいい友人と認められている気がして嬉しかった。けれど今は、嬉しい反面お前は友人止まりだと突きつけられている気がしてつらいのだ。ずっと胸がちくちくと痛んで悲しかった。
勝ち目がないなら。俺にチャンスが巡ってこないのなら。いっそ、ずっといい友人を演じることに努めようと溜め息をついて、何でもない風を装って教室へ戻ったのだった。


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