好きかも、しれない



授業終了のチャイムが鳴って、いつも通り食堂へ行こうと3人で教室を出る。2週間ほど前まで彼女と昼休みを過ごしていた音羽も、最近はずっと俺たちと一緒に食堂へ向かう日々が続いていた。

「それ美味そう。一口ちょうだい」
「来週食えばいいじゃん」

御幸が頼んだ日替わり定食の唐揚げを指す音羽。日替わりと言っても曜日で変わるから、来週まで待てば今日と同じメニューなのだ。そう言いながらも、御幸は唐揚げを1つ箸で取って音羽の口に運んでいる。餌付けしているみたいだ。当然のように口を開けている音羽もどうかとは思うけれど、何よりも自分が口をつけた箸を全く気にせず音羽の口につっこんで、それをまた普通に使う御幸の方に違和感を覚えている。他のクラスメイトがそれをやっていても特に何も思わないのだけれど、御幸がそれを当然のように受け入れたのを初めて見たときは驚きすぎて穴が空くほど見つめてしまった。

1年生のとき、まだ俺たちが絡み始めてそんなに経っていないころから、人との距離を詰めるのが上手い音羽は、ときどき今のように一口ちょうだいとねだってくることがあって。ただ、そのころは俺も御幸も普通に一口分を彼の皿に置くくらいだった。音羽も口を開けるようなことはしなかったから、お互いにそれが当たり前だったのだ。しかし、2年生になったくらいのときから御幸に対して口を開けるようになって。御幸も何の抵抗もなくそこに唐揚げやらハンバーグやらを放り込んでいたから驚いた。けれど、音羽が距離の取り方が上手いというのはずっと思っていたことだったから、御幸が心を開いたタイミングを見計らって口を開けるようになったのだろうと納得もしていたのだ。

「うま。来週それにするわ」
「どうせ来週も違うもの頼んで俺に一口ねだってくんだろ」
「否定できねぇな」

いいけど、と言いながらサラダを口に運ぶ御幸。こいつにしてはえらく距離が近いなとは思うけれど、2人ともそこに関しては全く意識してなさそうだから突っ込まないことにしている。俺はと言えば、御幸がそのようにし始めたあとも変わらず音羽の皿に乗せるようにしていた。音羽も特に気にしていないらしい。

いつものようにくだらない話をしつつ昼食を終えて、教室へ戻ろうと渡り廊下を歩いていた。次の英語の授業の予習をしてきたかとか、当てられたらどうしようとか。そんな1年生のころから全く進歩していない会話を繰り広げていたそのとき。

「一也!」

突然音羽が叫んで、御幸を抱き込むようにして庇う。彼の腕に勢いよくとんできたサッカーボールが当たって、地面に落ちた。音羽が庇っていなければ、今ごろ御幸の頭に直撃していただろう。怪我でもしたら、と音羽が庇わなかったときのことを想像してぞっとした。それと同時に、音羽のことが心配になる。

「一也、怪我は!?」
「や、音羽が庇ってくれたから大丈夫」
「よかった……」
「人の心配してる場合かよ。大丈夫なのか?」
「意外と痛くなかったから平気」

聞けば、腕を振りながら大丈夫と返す音羽。念のためあとで保健室へ行くように言えば、素直に分かったと返ってきた。抱き込まれていた御幸が音羽に謝れば、彼はきょとんとして。

「なんで謝んの」
「俺が気づいて避けてれば、」
「一也は悪くねぇだろ。それに、お前に何かあったら困るじゃん。とにかく怪我なくてよかった」

ぽん、と頭を撫でてサッカーボールを拾うと、ボールを蹴った奴らのところへそれを返しに向かった。御幸を見れば、じっと熱の籠った瞳で音羽を見つめている。……見惚れている、というのが正しいかもしれない。

「あれは、ずるい」
「おう」
「いや、ちょっと待って。……友達、の、はずなんだけど」
「……」
「……好きかも、しれない」
「……まあ、あれは仕方ねェわな」

元々御幸が音羽に好意的なのは分かっていた。友人としても、1人の人間としても。今回のことが決定打になっただけで、きっかけなんていくらでもあったのだ。イケメンで、人気者で、男前な性格をしているとなると、惚れてしまうのは道理で。俺でさえ今のは格好いいと思ってしまったのだから、守られた御幸が惚れてしまうのも仕方ないのかもしれない。
音羽が御幸にそういう感情を抱いているかは分からないけれど、友人としては好いているのだろうから。とりあえず俺は2人の近いようで遠い微妙な距離を一番近くで見守ってやろうと思う。


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