隣同士がいちばん自然



「おはよ」
「おー、おは……」

今日は珍しく彼がいないな、なんて倉持と話していた朝の教室。いつもは朝練がある俺たちより先にいて、俺たちが教室に入っていくと軽く挨拶をしながら寄ってくるのに。休むというメールも来ていないし、なんなら机の上に鞄が置いてあるから学校には来ているらしいのだけれど。そのうち戻ってくるだろうと倉持とそのまま話していると、噂の彼の声。いつもより低いその声に体調でも悪いのかと思いながら、挨拶を返しつつ振り向く。彼の顔を見て、不自然なところで言葉を止めてしまって。次の瞬間には、倉持と2人して盛大に吹き出してしまった。

「おまっ……どうした、それ! ヒャハハ!」
「超綺麗な紅葉じゃん」
「うっせぇな……」

教室中に俺たちの笑い声が響き渡る。クラスメイトたちもなんだなんだとこちらを見て、驚いたり興味津々な顔をしたりと反応はまちまちだった。なんたって、綺麗な顔に綺麗な赤い手形がついているのだから。
倉持と俺と、そしてこのお綺麗な顔をした音羽蒼真。いつも一緒にいるメンバーだった。音羽は男女問わずクラスを越えていろんな奴らとよく絡んでいる人気者なのだけれど、何故か1年のころから俺たちと一緒にいることが多かった。一度理由を聞いたときは、気を遣わなくていいからと言っていたから、彼の中では俺たちといるのが楽なのだと思う。俺たちにとっても、イケメンで人気者のはずなのに全く気取っていなくて、何故か物凄く気の合う音羽は隣にいなくてはならない存在になっている。
そんな人気者の彼の頬に綺麗な紅葉。何があったのかはなんとなく察することができるけれど、敢えて何があったのか尋ねた。周りからは聞いてやるなよという視線をいただいたが、そこは俺らと音羽の仲。こういうのは笑い飛ばしてなんぼだ。

「彼女が『浮気してんでしょ! 最低、別れる!』って、いきなりビンタしてきたんだよ」
「浮気してたの?」
「するわけねぇだろ。昨日1年生の女子に告られてんの見て勝手に向こうが勘違いしただけだっつの。違うっつっても聞く耳持たねぇし」

溜め息をついた彼に「モテる男はつらいねぇ」と言えば、からかうんじゃねぇと睨まれてしまった。

「音羽こわーい」
「うるせぇ、洋一よりマシだろうが」
「おいコラどういう意味だよ」

ぎゃんぎゃんと騒ぐ俺たちに、クラスの誰もがまた始まったと呆れ顔だ。毎日こんな感じでバカをやっては笑っている。こいつといると楽しいし、ぽんぽんと本音が返ってくるからやりやすい。それは倉持も感じていることのようだ。

「とりあえず保健室で手当てしてもらってこいよ」
「洋一は優しいなぁ。ときめいちゃう」
「キモ」
「ひっでぇ」
「音羽、俺は?」
「一也は性格悪いからな〜」

ひど、と返しながら笑う。なんだか心が一瞬もやっとした気がしたけれど、気のせいだろう。着いてってやろうかと言えば、「お前ら余計なこと言いかねないから1人で行くわ」と言われてしまった。そんな彼の背中を見送って、イケメンが彼女のせいで台無しだななんて倉持と笑って。本人に言ってしまえば「俺の顔好きすぎじゃね?」とかなんとか言ってからかわれるのが分かっているから絶対に内緒だ。

あとで本人から聞いた話だけれど、彼女とはこのことがきっかけで別れたらしい。元々すれ違い始めていたから仕方ない、と特に気にする様子もなく言っていたのを見て、何故かほっとしたと同時に少し嬉しくなってしまって。けれど、それには気づかない振りをして、失恋祝いにジュースを奢ってやれば楽しそうに笑うから、こちらまでつられて笑ってしまったのだった。


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