知らぬ間に始まってた




※女主。百合ですので苦手な方はご注意ください。

「なんで彼氏できないのかなぁ」

ぽつりと呟いた言葉はそのまま空気に溶けていった。一緒な空間にいる友人が拾ってくれなかったからだ。私の言葉に何の反応も示さずにただスマホをいじっている真希。さすがに寂しくて「え、スルー?」と言えば、彼女は面倒くさいと言いたげな視線をくれただけだった。

中学生のときは彼氏もいたし、当時の友人たちとそれはまあ毎日飽きもせずに恋バナなるものをしていたのだ。けれど今は。彼氏とは高専入学前に別れてしまったし、中学時代の友人たちはキラキラした高校生活を送っているというのに私ときたら。まあ今も充実していると言えばしているのだけれど。

それでも彼氏がほしいという気持ちは変わらなくて。ただ、街を歩いてみてもいいなと思う男がいないのだ。以前なら、街を歩いただけでも格好いいなと思ったりときめいたりすることがあったのに、最近はそれがなくて。格好いいと思っていたはずの店員さんを見ても、モテそうだなぁとしか思わなくなっていた。
呪術高専にいる男たちを見ても同じだった。憂太も棘も優しいし、五条先生は顔はいいし、パンダは別の意味でモテそう。でも、それ以上は何もない。

「もう私枯れちゃったのかな……」
「17で? はやすぎだろ」
「だって最近全然ときめいてないもん。あー、きゅんきゅんしたい」
「ふーん」

彼氏くらいそのうちできるでしょなんて呑気な考えは、時が経つにつれて焦りに変わっていく。もしかして一生できないのかなとか、これから先、格好いいと思えることすらなくなっちゃうのかなとか。

「不安だ……」
「……私がいるのに?」
「え、」

俯いて不安を口にすれば、妙に真剣な声が返ってきた。驚いて視線をあげると、顎に手を添えて真希の方へ顔ごと向けられる。顎クイなんて漫画やドラマの世界でイケメンにされるからいいんでしょ、なんて思っていたのに。

「私がいるのに彼氏が必要なのかって聞いてんだよ」

他の男たちにときめかない理由がたった今分かってしまった。隣に彼女がいるからだ。顔がよくて、何だかんだ優しくて、友達想いで、生きざまも性格も格好いい女の子が。

「ん?」
「い、いらないです。真希がいれば彼氏なんていらないです」
「よし」

思わず敬語になってしまった。私の言葉を聞いた彼女は、手を離して満足げな笑みを浮かべている。

「真希が彼氏になってくれれば万事解決なのでは……」
「いいぜ。こんなかわいい彼女なら大歓迎だ」
「ひぇ」

にやりと笑う真希が格好よすぎて、これはもう絶対に彼女以外では満足できなくなってしまうのだろうなと思ったのだった。


title by Ruca


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