ロマンスはこれから




「ツナマヨ」
「……」

"かわいい"。ことあるごとに、というか何もしていなくても言われている。
言っておくが、私はかわいいなんて今まで言われた記憶がないし、言われていたとしても赤ん坊の頃くらいだろう。男兄弟に囲まれて過ごした私は小さい頃から見事にやんちゃ娘になり、幼稚園や小学校に通う頃にはガキ大将をやっつけてトップにのしあがった。中学校では大人しくしていようと思ったのに、バスケ部に入って女子生徒にきゃあきゃあ騒がれ、挙げ句毎日のように告白される始末。「格好いい」だの「性別なんて気にしないから付き合ってください」だのと言われては愛想笑いで断っていた。高校だってはじめは普通の学校に通っていたのだけれど、そこでも黄色い声があがっていた。
それが面倒くさくなってしまって、生徒数が少ないという呪術高専に転入学を決めた。もちろん、そんな理由で入れるところではないと承知している。生まれつき呪霊は見えていたし、祓うこともできた。けれど、見えないふりをしていれば基本的には襲ってこなかったし、呪術師になりたいなんて思っていなかったから普通の学校に通ったのだ。そこで先程も言ったが、自分に向けられる黄色い声が面倒くさくなった。生徒数が少ないなら"格好いい"と言われる回数も少なくなるだろうし、呪術師としての生活を学んでみるのも悪くないかという適当な理由でここに来ることを決めたのだ。高専卒業後は一般企業に勤める人もいるということを聞いていたから、それでもいいかなんて思っていた。
けれどいざ転入してみると、予想外のことが起きてしまった。

「ツナマヨ」

"格好いい"は言われ慣れている。けれど、私の隣でこちらを見つめる男──狗巻棘。こいつは、私が転入した初日から"かわいい"を連発してきた。生徒数が少ないことも、女子が私以外には真希しかいないこともあって、面倒くさいと思っていた黄色い声があがることはなくなってすっきりしていた。真希も格好いいと言われるタイプだし、サバサバした性格だからすぐに仲良くなれたのだけれど。
初めて狗巻に"かわいい"と言われたときにはからかわれているだけだと思った。おにぎりの具で話すし。けれど、彼がそんな奴ではないと分かり始めた頃から今まで、彼が何を以て私に"かわいい"と言っているのか全く分からない。

「狗巻。何度も言ってるけど私はかわいくない」
「おかか。ツナマヨ」
「だから……どう言ったらやめてくれんの、それ」
「ツナ、こんぶ」

かわいい子にかわいいと言って何が悪いのか。
きょとんとした顔で当たり前のように言われて溜め息が出る。別にかわいい顔をしているかと言われればそうでもないのだ。狗巻の方がよっぽどかわいらしい顔をしている。おにぎり語だって、メルヘンと言えなくもないような気がするし。

「何で私のことかわいいって思うの」
「ツナマヨ?」
「いや、かわいいから? じゃなくて。……かわいい要素なんてないでしょ」

今まで"格好いい"しか言われたことのない私には理解ができなかった。食い下がる私に、狗巻は"ああ、そういうこと"という顔をして。ほとんど変わらない背丈の狗巻が、近づいてきて私の耳に唇を寄せた。

「ツナ、いくら、すじこ……ツナマヨ」
「!」

顔も、負けず嫌いな姿も、俺のこと目で追ってるところも全部、かわいい。
顕になった口元。にやりと笑う狗巻に、なぜバレているんだと驚くと同時に頬が熱を持つ。"かわいい"と言われ続けるうちに、最初は変な奴という印象だったのにだんだんとどうして"かわいい"と言うのか知りたくなって観察を始めて。そこから少しずつ惹かれてしまって、目で追うようになってしまったのだ。どうしてそれを彼が知っているのか。真希にもパンダにも、乙骨にも知られていないのに。

「こんぶ」

何も言えずに顔が赤くなっているのを見られたくなくて手で覆えば、耳元でまた狗巻が喋る。"そういうところもかわいい"なんて。したり顔をしているのは、見なくても分かった。


title by Ruca


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