シトラスコロンと青い空




雲一つない青い空を見つつ伸びをしながら「特訓日和だな」と呟けば、乗り気になった真希がにやりと笑って。結局パンダも狗巻も巻き込んで、グラウンドへ繰り出すこととなった。
外は思った通り暖かくて、動けば少し汗ばむくらいだ。けれど、暑すぎず寒すぎず、ときどき爽やかな風の吹くこの季節がグラウンドで特訓するにはちょうどいいんだよなぁと思いながら準備運動をして。真希とパンダは早くも特訓を始めているから、俺の今日の相手は狗巻だ。隣で同じように準備運動をしている彼を盗み見れば、呆れたような表情で2人を見ていた。

「真希とパンダ、なんで喧嘩みたいになってんの?」
「高菜、明太子」
「それはパンダが悪いな」

昨日、海外出張中の乙骨と連絡を取っているときにパンダがまた余計なことを言ったらしい。俺は任務に行っていたから乙骨とは話せなかったけれど、そういえば真希とパンダと狗巻はリモートで連絡を取ると言っていたなと思い出す。大方、天然タラシな乙骨の言葉に照れた真希をパンダがからかったとかそういうあれだろう。それで彼女は早々にパンダを攻撃し始めたというわけだ。1年生の頃から変わらない光景に、呆れつつも嬉しくなって笑ってしまった。

「こんぶ?」
「ん、何でもないよ。俺たちもやろうか」
「しゃけ」

準備運動を終えた俺たちも始めようと向き直る。今日は体術の特訓をするつもりで、武器は持っていない。真希やパンダを相手にするのもいいけれど、狗巻との体術の特訓は2人とは違った意味で勉強になる。元々の運動神経のよさを活かした身のこなしで、くるくると逃げ回るうえにぴょんぴょん跳ねるのだ。動きに規則性がないからこそ捉えるのが難しい。

「よっ、と!……くそ、すばしっこい」

逃げ回る狗巻が体勢を崩したから、回し蹴りを決めようとしたのだけれど。その崩れた体勢から軽い動きで回し蹴りを避ける狗巻。

「すじこ」

にやりと笑って、ぴょんと跳ねた彼は俺から距離を取った。しかし、これで終わるわけにはいかない。元来負けず嫌いな俺は、どうしても彼のしたり顔を崩したくて。狗巻と俺の間はせいぜい5歩。思い切り地面を蹴って、彼との距離を一気に詰める。一瞬たじろいだ狗巻を逃さず、彼の腕を掴んで地面に倒す。身動きが取れないように馬乗りになって、狗巻の両手首を片手で掴んだ。今度は俺がしたり顔をする番だった。

「はい、俺の勝ち」

狗巻を見下ろしてにやりと笑いながら、語尾にハートマークがついているのではと自分でも思うくらい上機嫌な声が出た。狗巻の悔しそうな表情が見られると思って彼を見れば、想像していたものとは全く違った表情が目に入ってきた。

「え、」

見下ろした狗巻は顔を真っ赤に染め上げていて。なんなら耳まで赤い。視線だけでなく顔まで俺から逸らしているのは、おそらく見られないようにするためだろうなと他人事のように思った。
それにしても、どうして。動いていたからと言って、ここまで真っ赤になるだろうか、普通。いや、動いて熱くなったから顔が赤いのではないだろう。それなら。
そこまで考えて、俺まで照れてしまって。かあっと顔に熱が集まるのが自分でも分かる。ふと、今自分が掴んでいる男にしては細い彼の手首を意識してしまって、そこもじんわりと熱を持った。

「いくら」
「っ! ごめん」

いつもの悪戯好きな彼からは想像できないほどのか細い声で「退いて」と言われて、光の速さで彼から離れた。身体を起こした狗巻は、気まずそうに視線を逸らす。そこへ、ボコったらしい真希とボコられたらしいパンダの「休憩にしようぜ」という声がかかった。

「しゃ、しゃけ!」

慌てたように返事をした狗巻が立ち上がって2人のところへ走って行く。走り出す直前にこちらをちらりと見たその紫の瞳には、小さな小さな熱が見えた気がした。

「参ったな」

手には、狗巻の細い手首の感覚とその熱が残っている。その彼の熱が移ったみたいに、俺もだんだんと顔だけでなく身体中が熱くなってきて。暑すぎず寒すぎずちょうどいい季節、のはずなのだけれど。

「ちょっと熱すぎる……」

こういうときに限って、風は吹かない。


title by Ruca


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