ときめけ、恋ごころ




「五条先生、好きです!」
「おはよう、名前」
「おはようございます!」

五条先生を廊下で見かけて挨拶をしながら駆け寄れば、挨拶を返してくれたうえに名前まで呼んでもらえた。今日はいい日だ。

「名前さん相変わらず趣味悪……」
「野薔薇ちゃん聞こえてるよ」
「挨拶より先に告白ってすげぇよな」
「名字先輩の場合、告白が挨拶みたいなもんだからな」

先生の数歩前を歩いていた1年生たちがぼそりと呟いている。全部聞こえているけれど。先輩に対しても思ったことをそのまま言ってくる後輩たち。よく言えば素直だしかわいい後輩なのだけれど、ときどき先輩と見られていないことがあるような気がしている。

「五条先生見たら好きっていう気持ちが口をついて出ちゃって。……そんな"どうしようもねぇなコイツ"みたいな目で見ないで?」
「実際どうしようもないでしょう」
「こればっかりは伏黒に同意」
「名字先輩は五条先生のどこが好きなん?」

ひどい後輩2人に対して虎杖くんは素直に私の話を聞いてくれるからついつい嬉しくなっていろいろ話してしまう。先生の話をし始めると止まらないのを知っている野薔薇ちゃんと伏黒くんにはうんざりした顔をされてしまった。

「僕も知りたいな」
「先生がそこまで言うなら恥ずかしいけど言っちゃう!」
「羞恥心の欠片もない人が何言ってんの?」
「つっこんだら負けだぞ、釘崎」

辛辣な2人は相変わらずひどいから、あとで真希とパンダにシメてもらおう。その間に私は棘に慰めてもらおうと思う。意外と悪戯っ子で悪ノリが好きな棘なら、"おーよしよし、かわいそうな名前"とか言いながら撫でてくれるに違いない。

「五条先生の好きなところはー……顔!」
「うんうん」
「と、綺麗な瞳と、つやっつやの唇」
「……他には?」
「…………甘いもの好きなところとか……あ! あと生徒想いなところ!」
「思いきり今考えたな」
「結局は顔なのね」
「そこ2人うるさい!」

先生の顔が好きなのは事実だけれど、他にも好きなところはあるのだ。人でなしなところも、我が儘なところも、大事な説明をしないところも……あれ、悪口になってる?まあとにかく、五条先生だから好きで、溢れんばかりの想いを毎日言葉で表現しているのだ。
好きに理由なんていらないし、五条先生の全部が好きで好きでたまらない。
そう伝えれば、虎杖くんは感動したような声をあげたけれど、あとの2人は「趣味悪……」みたいな顔をするからやっぱりシメてもらおうと思う。

「アツいねぇ」
「純愛ですから」

海外に行っている同級生の言葉を借りて決め台詞っぽく言ってみれば、「憂太の真似? 似てないね」と言われてしまった。こうやって毎日するすると躱されてしまうのだ。そんなところも好きなのだけれど。

「私、今日の夜から2泊3日で出張任務なんです。その間先生に好きって言えないから、明日の分まで伝えますね。五条先生、大好きです!」
「うん、ありがと」
「名前! こんなところにいやがった」
「おかか」
「はやく授業行くぞー」

同級生3人が迎えに来てくれたけれど、先生と離れるのが名残惜しくて悪足掻きに彼の服の裾を掴んでみる。けれど、近づいてきた真希に引き摺られて呆気なく先生から離れることになってしまった。さすが馬鹿力。本人に言ったら殴られるから心の中に留めておくけれど。

「先生、出張行く前に会いに来ますね!」
「うん。僕も名前の"好き"が聞けないのは寂しいし。言いに来てね」
「ッハァ! 貴重なデレ、いただきました! ありがとうございます!」

五条先生のデレの威力が半端なくて鼻血を吹き出してしまった。鼻を押さえながらずるずると真希に引き摺られて先生が見えなくなる。ついでにドン引きした後輩たちも。

「後輩たちに引かれてるじゃねぇか」
「うーん。あの子たち、何で五条先生の魅力が分かんないかな」
「いや、それは私らにも分からねぇ」
「しゃけ」

みんなが私にひどい。
そう呟けば、パンダのもふもふの手が私の頭を軽く小突いた。3人の呆れたような視線を受けて疑問をそのまま顔に出せば、真希が溜め息を吐いて口を開いた。

「大事な仲間が淫行教師に取られねぇか心配してんだよ」
「真希……!」

感動してぎゅっと抱きつきながらお礼を言えば、照れたように「はやく授業!」と言われてしまった。いい仲間を持ったなと思いながら頬が緩むのをそのままにみんなと教室へ向かう。

「あ、でも五条先生は淫行教師なんかじゃないからね!」
「「あーはいはい」」
「……こんぶ」


title by 確かに恋だった


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