保護

月の裏

 長谷部が日本号と付き合うことになった。
 そんな話をへし切長谷部から明かされた宗三左文字はつまらなそうに溜息を吐いた。
「貴方から食事に誘われるなんて何事かと思えば、そんな今更な話ですか」
 へし切長谷部と日本号が親密なのは本丸内では周知の事実であるだけに、宗三にしてはむしろ今まで付き合っていなかったのかと思う程だ。誰かの話によると戦場で非常に込み入ったやり取りまでしていたというのだから、これから続く話はつまらない予感がしてならない。
 宗三は長谷部から「相談したいことがある」と、とあるスープカレー屋へ誘われた。相談とは珍しいと興味を惹かれた宗三はひとつ返事で了承し、相談ともなれば時間を要するだろうとトッピングたっぷりのスープカレーとジョッキサイズのラッシーを頼んだ。しかし長谷部のあの話だ、カレーはまだ半分以上残っているのに帰りたい欲が湧き上がってくる。
「相談したいことがある、と言っただろう」
「そういえば言ってましたね」
 話の流れとして、相談事は日本号と付き合うことと関連がある可能性が高い。付き合い始めの悩みなんて惚気の延長みたいなものと思ってならない宗三は再び口から溜息が出そうになる。
「それで、相談とは何ですか」
 追加トッピングの鹿肉に齧りつきつつ、長谷部に先を促す。話が長引いても拘束時間が長くなるだけならば、さっさと話を聞いて適当に相槌を打ってお開きにしよう。
「日本号が毎朝、好意を伝えてくるんだ。だから俺も応えたいんだが、良い返しが思いつかなくて……」
 予想に違わぬ相談という名の惚気に、普段は滅多にない胃もたれを覚える。これまでの距離の近さに付き合っていると思っていたが、実際付き合うとこんなに無自覚に惚気るのか。
 食べるのを中断して、残りは食べ切れないとか適当な事を言って持ち帰り用にまとめてもらおうか。割と本気でそんなことを考えながらジョッキを呷る。
「……昨日、日本号と一緒に出掛けた時も何も言えなかったんですか?」
「な、なんで出掛けたことを知っているんだ?」
「小夜が日本号から昨日の話を聞いたそうで。それで小夜を通して僕の耳にも入ったのですよ」
「そうか。……言えるわけがない。言えなかったから貴様に相談してるんだ」
「まあ、そうですよねえ」
「何か案はないか?かつては幾人もの所有者を虜にしたのなら思いつくものもあると思ったんだが、」
 そういう理由で相談相手に選ばれたのかと宗三は納得する。昔馴染みだから恋愛相談の相手に選んだ、というには長谷部と宗三の関係は微妙なものだ。互いに同志とは思うものの、朋友かと尋ねられたら否定する。
 所有者が勝手に狂っただけで、僕は特に何もしていないんですけどね。なんて内心突っ込みを入れながら、少なくとも自分だからこそ長谷部が頼ってきたのだと知った宗三は何度目かの溜息を吐く。
「貴方は気にしているようですが杞憂ですよ。だって、彼に貴方の気持ちは十分に伝わっていますから」
「は?」
 心外だったのか、素っ頓狂な声が返ってくる。
「どうして小夜が僕に貴方と日本号が出掛けた話をしたと思います?」
「どうしてって……どうしてだ?」
 刀剣男士が揃って外出すること自体、そう珍しくはない。それなのに小夜が宗三へそのことを伝えたとなれば、それなりの理由があるのだ。だが、長谷部は理解していないのか、心底わからないと首を傾げる。
「日本号から『昨日長谷部とデートしたら熱烈な愛の告白をもらった』と惚気られたんですよ」
 内容は省略するが、恋愛に疎い小夜には少々刺激の強いものだった。そのため、小夜は自分の中だけで秘めておくことができず、宗三へ話して消化できない気持ちをどうにかしようとしたのだ。
 宗三の説明に、長谷部は相変わらず微妙な表情をしている。
「昨日は、そういったことは言っていない筈だが」
「なら、無自覚に言ったんでしょう」
 相談という名の惚気話をしたのだから、自覚無しに日本号へ愛を伝えたっておかしいことはない。長谷部は決して鈍感な質ではないのに、どうして変なところで抜けているのか。
 付き合っていられないと、宗三は店員を呼んで食べていたスープカレーを持ち帰り用に包むよう依頼する。
「おい。話は途中だぞ」
「話を続けたところで惚気しかないでしょうから僕は帰ります。本当はラッシー代くらい払ってほしいところですが、貴方なりに多少にも悩んだと思いますから自分の分は支払いしていきます」
 ジョッキに残っていたラッシーを一気飲みする。すっきりした味わいは惚気に甘ったるさを覚えたところに清々しく、あっという間に飲み干してしまう。
「では、僕は失礼します。何度も惚気話は聞きたくありませんから、暫く食事には誘わないでください」
 唖然とする長谷部を尻目に、宗三は持ち帰り容器にまとめてもらったスープカレーを受け取って退店する。
 まったく、カレーでお腹を満たす筈が違うもので満腹になってしまった。しかもそこそこカロリーのある話だっただけに、夜まで引き摺るかもしれない。そんな不安を覚えながら宗三は帰路につくのだった。
2024.11.25 10:27


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