とうらぶ 江雪 | ナノ



▼ 7

 山城とは皆どこも似たようなものなのだろうか。それともあえて画一的に作られた城なのだろうか。審神者にも江雪にも、不気味なほど見覚えのある城だった。まるで逃げてきた城そのものなのだ。
「幸い、井戸は枯れていなかったので……」
 江雪は審神者へ自分の着物を毛布代わりにかけてやっていた。袈裟も着物も平たく置いて干しており、随分と軽装になっている。髪はまだ乾ききらず、氷のようになっていた。
「この城は一体誰のものだったのかしら……」
「我々と同じように城も主は変わりますので……答えるのは、城のほうもいささか複雑に思うかもしれませんね」
 悪い予感はお互いだった。審神者は踏み込もうとする。江雪ははぐらかす。
「それでも、場所は変わらないわ。困ったのは私たちがどこにいるかわからないということよね」
「それは、後にしましょう。今は体を休めてください」
「……一人にしないでね」
 審神者は江雪の着物の裾を掴む。これ以上の散策をしなければ、他に行くところもない。江雪は審神者の隣に正座でじっと座ることしかできない。
「寒いから……もう少し、近くに」
 擦り寄っていくのは審神者だった。心細さを人肌で埋め合わせたかった。
 江雪は心の中で自問自答をしている。ひとまず審神者の命をつなぎとめることはできた。しかし、今の自分は小夜にあわせる顔があるのだろうか、と。これではまるで、間者疑惑に乗じて自分が審神者をさらったようではないか。それも無計画に。
「……!」
 バタタ、と、鳥が飛び立つ音がした。審神者は身を縮める。江雪は刀に手を置き、いつでも切りかかれるように身構えた。しかし、気配はない。
「……こんな調子じゃ、身が持たないわ。わかってたのにね……逃げるっていっても、私は一人じゃ何もできない。江雪さんに迷惑をかけるだけ」
「やめてください。迷惑だと、一度として思ったことはありません」
「優しい。大好き。……でも、戻ったほうがいいのかな、って思い始めてる」
 ぐす、と、審神者が鼻をすする。一つもうまくいかない上に、追い討ちをかけるように自ら足を進めることすらまっとうにできなくなった。仲間を失い、仲間を疑い、仲間を放棄し――自己嫌悪が審神者の心を支配する。
「私では力不足ですか」
 後ろめたく感じている故か、そう言われているように聞こえてしまった。心の中に生まれた焦りは、引け目すら隅へ追いやってしまうほど切ない。
「そういうわけじゃないの。でも」
「何がご不満ですか」
 江雪は審神者の肩をつかむ。審神者はたじろぐ。このままフッと遠くまで逃げられてしまいそうで、江雪は必死になって審神者のことを抱きしめる。雨の香りの中に、お互いの体温が混ざり合う。
「どうすれば貴女は私を伴侶と認めるのですか?」
 過ぎたことを変えるのは困難だが、気持ちの行き違いを確認するのは容易い。一度触れてしまえば箍はあっさりと外れるのだ。
 雨足が強くなる。外で待つ者が耳をふさがなくても良いほどに。
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